温かい支持者を集める。観客の入るゲームでは、スタンドをチームカラーのオレンジに染めてきた。
クボタは5月16日、国内ラグビートップリーグでプレーオフの準決勝へ挑む。今季4強入りの顔ぶれにあって、この舞台へ初めて挑む唯一のチームである。無観客の大阪・東大阪市花園ラグビー場で、過去優勝5回のサントリーに挑む。
「いつも通り自分たちにフォーカス。それは今季ずっと変わらず、今週日曜も同様。お互い何をするかがわかるなか、自分たちのベストゲームをする」
簡潔に展望するのは、就任5年目のフラン・ルディケ ヘッドコーチだ。
かつて南アフリカのブルズを率いて2度のスーパーラグビー優勝を成し遂げた53歳は、1対1での対話を重んじる。オンライン取材で質問を受ければ、必ず「〇〇さん、コンニチハ」と聞き手の名を呼んでから応える。その慎ましい態度が仲間内でも変わらないことは、スタッフの証言で明らかだ。
近年は2019年就任の田邉淳アシスタントコーチが、相手の弱みを突く連続攻撃を磨いてきた。従来からの看板だった強力FWの推進力に加え、多彩な長所を有する。指揮官は今季の好結果の背景を「ラグビー、文化、まとまり具合がかなり成長してきた」とし、こう続けた。
「特に今季はオールラウンドに長けている。キック、ディフェンス、ボールキープからのエキサイティングなトライ…と、いくつかの方法で試合に勝つことができています。現場の選手たちが状況判断できるようになったことで、それが可能になっています」
ルディケと二人三脚で歩んできたのが、元日本代表の立川理道主将である。
5月9日には静岡・エコパスタジアムでのプレーオフ準々決勝で、2018年度王者の神戸製鋼を制した。立川はインサイドCTBで先発も、前半29分にSOのバーナード・フォーリーが一発退場となったのを受け司令塔の位置へ繰り上がった。
パスの回数を減らしながらじっくりラックを連取し、かねてあったリードを終盤まで保つ。一時は勝ち越されるも、後半36分にはWTBのゲラード・ファンデンヒーファーがペナルティゴールを決める。23-21。逆転勝利を決めた。
立川は「あの(1人少ない)状況で戦えたのは自信を持っていい」。特に突進、セットプレーで奮闘したFW陣を称え、今度のセミファイナルを見据える。
「(苦しい状況を)コントロールできたのは(チーム全員で)同じページを見られていたから。なかでもFWの頑張りがあった。次はどんなメンバー編成になっても、サントリー戦へのいいプランを実行するだけです。FWのセットピースでは優位に立てれば。ここには僕も期待していますし、FWも自信を持って臨むと思います」
船頭役の言葉通り、チームは南アフリカ代表HOのマルコム・マークス、身長205センチのルアン・ボタらパワフルな戦士が攻防の起点を牛耳る。本番でも期待される。
一方、球を動かす際の軸となるオーストラリア代表のフォーリーは欠場する。代役は立川が務め、立川の定位置だったインサイドCTBへはニュージーランド代表経験者のライアン・クロッティが入る。
今回のメンバー編成について、ルディケは「全員がクボタウェイをわかっている。10番になりうる選手は誰でもいいパフォーマンスを発揮してくれる」。立川はバックヤードでのフォーリーの献身ぶりを語る。
「フォーリー本人は試合に出られる、出られないがわからない状況でも、週末に向けたチームの準備を率先してやってくれていました。彼は今季を通し、おもにアタックでリードしてくれていて、今回もその姿勢は変わらない。メンバーか、メンバー外かと関係なくやってくれている」
加入2季目のクロッティはポジショニングや仕事量、正確なパスワークで際立つ仕事人。今季は同時出場2名までという外国人枠とチーム方針により出場時間が限られたが、かねてこう話していた。
「自分の仕事はチームをよくすること。試合に出てなくても他選手の成長(を助けること)など貢献できることはたくさんある。現在はメンバー外の選手がしっかりと元気に、ポジティブに取り組んでくれています。これらがうまく行っているということは、クボタのチーム文化がうまく行っているということだと思います。自分がグラウンドに出たら、自分の仕事をする」
ちなみに今季初先発となった第3節終了後には、記者会見で誠実に応対。退室と同時に広報担当者へ放った言葉が、生来の視野の広さと想像力をにじませている。
「そうだ、オレンジアーミー(来場者へオレンジ色のベースボールシャツを配るチームの取り組み)のことは話さなくてもよかったか?」
対するサントリーには4月3日のリーグ戦第6節で26-33と惜敗している(東京・秩父宮ラグビー場)。あれから約1か月。立川は「一試合一試合を通して常に学びを感じていきながら、成長できている」と述べる。
「公式戦を通して出場するメンバーが同じようなミスを犯さないような選択も、チームが難しい判断を下す時にリーダー陣同士で話すということもできている。一試合、一試合の学びを次に活かせている。このプレーオフを通してもです」
物語はあともう1週間、続けるつもりだ。