髪を短くした方がいい。サイモン・クロン ヘッドコーチ(HC)に冗談めかしてそう言われているらしいマイケル・フーパーが、オンライン取材に応じていた。波のかかったブロンドが特徴的だ。
「いま、茂野が部屋に入ってきたのでいいことしか言えないけど…」
こう切り出したのは、チームの共同主将たる茂野海人について聞かれた時だ。
ちょうど次のインタビューを控える茂野本人が、所定の部屋に入ってきたようだった。オーストラリア代表105キャップ(代表戦出場数)のフーパーは言った。
「茂野はいいリーダーシップを持っていて、全体をうまく巻き込めている。試合の局面では、いいことを伝えたり、もうひと押し必要な時はそうしたりと、優れたゲーム感覚を持ってコントロールしている。彼のリーダーシップを見て、毎回、エキサイトしている部分がある」
所属するトヨタ自動車がジャパンラグビートップリーグのプレーオフ準決勝に挑む、4日前のことだった。
30歳で日本代表10キャップの茂野は今季、加入1年目で1歳年下のフーパー、昨季から在籍の35歳でニュージーランド代表127キャップのキアラン・リード共同主将とともにプレーしている。
2人は自国のナショナルチームで主将を経験する。茂野は証言する。
「リードからはチームへの話し方で学んでいる部分がある。例えばひとつのことを伝えるにしても、チームにどうやって伝えるかがうまくて。フーパーは、ポジティブなことしか言わないです。ネガティブなことも、ポジティブに捉えられるように言っているのが印象的です」
総じて、伝える内容を首尾よく伝えるための配慮が肝なのだろう。
リード自身も「いかに効率的に、正しいタイミングで正しい伝え方をするか(が鍵)」と笑うなか、茂野は「うちは『結果よりプロセスを重視する』という話をよくするんですが…」とさらに話を深掘りする。
「リードはその『プロセス』のなかでも、『キャッチとパスの精度、(攻めを)フィニッシュまで続けることを意識し、毎回、毎回、ハイスタンダードでやっていかないと』と、皆の頭に入るような言い方をしています。フーパーは、ミーティングでネガティブな話が出た時もポジティブな方向に変えるのがうまい。自分自身も、そうできるようになっていきたいなと思います」
大阪・東大阪市花園ラグビー場での準決勝では、パナソニックとぶつかる。
自軍のしていない優勝を4度成し遂げている相手のことは、「キックの使い方がすごく上手。あとはディフェンスが堅い」と見る。さらに韋駄天ぶりが際立つWTBの福岡堅樹を「1人でもトライに持っていける力がある」と、要注意人物の1人に挙げる。
自軍はここまで防御を課題としてきているが、フーパーのように「ポジティブ」に解決を目指す。
「ディフェンスラインの幅、ブレイクダウン(接点)に誰が入るかというところ(役割分担)を修正できれば。(NTTドコモに33-29と辛勝した準々決勝からの)1週間ですべてを治せるとは思わないですが、修正できるところは修正して臨みたい」
大阪の岬ラクビースポーツ少年団、岬中、島根の江の川高(現 石見智翠館高)、大東大を経て2013年にNEC入り。15年には短期留学先のニュージーランドでオークランド代表に選ばれ、その翌年には日本代表デビューを飾る。2017年度の国内移籍に伴う出場停止期間を乗り越え、いまに至る。
元ニュージーランド代表ヘッドコーチで就任2季目のスティーブ・ハンセン ディレクター・オブ・ラグビーは、世界的なパンデミックの影響から今季は来日できずにいる。しかし、今度のプレーオフ突入に際し「プレッシャーを受け入れる」「リカバリーはハードにする」「ラグビーのところはしっかりとやっていこう」とウェブ会議ツールで訓示したという。
競技生活を通し多彩な学びを得てきた茂野は準決勝、SHで先発予定。FLでベンチスタートのフーパー、NO8でスターターのリードとともに難局に立ち向かう。