トップリーグ、クボタスピアーズの快進撃が続いている。5月9日のプレーオフトーナメント準々決勝では、神戸製鋼コベルコスティーラーズに挑み前半からリード。途中、司令塔を欠くも、後半に再逆転で23-21と勝利し、初の4強入りを決めた。
最後尾でチームに貢献しているのが、入団2年目のユーティリティBK金秀隆(きむ・すりゅん)。関東大学リーグ戦2部の朝鮮大から2020年春、クボタへプロ契約を結び加入した。
トップリーグ2021リーグ戦、レッドカンファレンスの第1節。宗像サニックスブルース戦でFBとして先発デビュー。以来、リーグ戦7試合とプレーオフ2試合の全てで先発、しかも80分間フル出場を続けている。ディフェンスで汗をかくと同時に、持ち前のランで2トライを決めている。
秀隆の活躍に刺激を受けているのが母校、朝鮮大ラグビー部だ。今春、卒業したメンバーから主将の夫善紀(ぷ・そんぎ)がトップイーストBの日立製作所サンネクサスに入団するなど4名が社会人でラグビーを続けるという。
クボタの準々決勝前日、朝鮮大グラウンドでは22名が練習に励んでいた。11名ずつに分かれてタッチフット中心に2時間の練習。基本のパスやオフロードパスでつなぎ相手を抜く。ブレークダウンで2人目がサポートに早く入る。4、5名ずつの対戦ではゴール前5メートルでトライを取り切ることに取り組んでいた。
今春、8名の1年生が入部し25名となった。8名中、今年1月、全国高校大会で4強に進出した大阪朝鮮高から6名、東京朝鮮高1名、愛知朝鮮高1名という内訳。大阪のラグビー部出身者は8名が朝鮮大へ進んだが2名がまだ入部していない。
WTBで花園のピッチを駆け回った金秀鎮(きむ・すじん)は秀隆の弟だ。4兄弟の末っ子。長男・秀勇(すよん)氏は朝鮮大サッカー部。2歳下の二男・秀昌(すちゃん)氏がラグビー部。2歳下の三男・秀隆に秀鎮と続く。
タッチフットの休憩中、円陣で秀鎮が仲間に感じたことを話す。「相手との間合いをもっと考えてプレーしよう」。1年生だが上下の関係なくコミュニケーションを取っていた。
秀鎮が話す。「お兄ちゃんからはいつも『朝鮮大のラグビーはどうって』電話があるけど『ぼちぼち』と答えています。最初、朝鮮大に行くことは決めていたけどラグビー部に入る気持ちは無かった。お兄ちゃんたちが『朝鮮大のラグビーを守りたい』と話しているのを見て自分もとなった。お兄ちゃんは一人一人が発信していくことが大事と言います。同期を『朝鮮大でラグビーを続けよう』と誘ったので自分がやめるわけにはいきません」
インサイドCTB金洸羽(きむ・ぐぁんう)は「高校の時から朝鮮大に入って2部から1部へ上げることを目標にしました。全国大会4強は自信になっています。秀隆先輩の活躍、刺激になる」
PR鄭善甫(ちょん・そんぼ)も朝鮮大への思いを語る。「4強になったときに同胞の皆さんからたくさんの応援をもらいました。朝大でその恩返しをします」
鋭いタックル、突破で花園を沸かせたFL金智成(きむ・ちそん)やWTB金洸寿(きむ・ぐぁんす)も思いは同じ。「高校時代、全国の同胞から応援してもらいました。大学でラグビーを続けて1部に上げるのが目標」と力強い。
朝鮮大と別の道を選んだ同期たちも気になる。花園で魅力的なアタックを繰り出したFB金昂平(きむ・あんぴょん)は主将のNO8金勇哲(きむ・よんちょる)とともに明治大へ進んだ。
関東大学春季大会、明大の初戦、日大戦で昂平はリザーブに入り後半WTBでピッチへ立つと決勝トライで公式戦デビューを飾った(24-19)。
同じWTBの仕事に秀鎮は「刺激になります。同期とは連絡をいつも取りあっています」。FL姜征勲(かん・じょんふん)も希望は「日本の大学に入った同期たちと対戦したい」
東京朝高から一人、入部の許恭旭(ほ・こんうっ)はFL。「高校からラグビーを始めました。やり残した気持ちがあるので朝大で続けます。東京朝高の同期は大阪の子たちと一緒にラグビーするのは怖い(危険)と言って避けています(笑い)」
唯一のラグビー未経験者が閔宰東(みん・じぇどん) だ。愛知朝高で途中までサッカーをしていた。朝鮮大は全員が寮生活を送る。その相部屋でFL智成と暮らす。ラグビー部に誘われた。ラグビーを始めた理由には地元の友だち、黄世邏(ふぁん・せら)の存在もあった。黄は中部大春日丘高へ進みPRで花園に出場した。「世邏が、関西学院大でラグビーを続ける。自分も成長して、世邏と試合をしたい」
有望な1年生たちを迎え、主将のNO8金誠宇(きむ・そんう)は今季を見据える。
「この前の練習試合(5月5日、東京闘球団高麗戦。24-12で勝利)で手ごたえを感じました。デカイ相手にも前へ出て仕掛ける。ターンオーバーもできていました。朝大は人数が25名と少ないので練習もすぐに順番がまわってきてきついけど、ボールを回してつなぐラグビーを目指していて一人一人が役割を理解するためには役にたっています。1年生が8名も入ってくれたのは秀隆先輩たちの活躍もある。大阪の1年生は全国4強で、試合に勝つことを知っていることが大きい」
呉衡基(お・ひょんぎ)監督は、「(春は)1年生も含めて2部で戦えるように体を大きくすることに取り組みます。チームとしてどういう戦い方をするか、たくさん試合をして経験を積んでいきたい」。今年の4年生8名は、卒業後も社会人でラグビーを続ける希望者はいないという。また1年生も秀鎮が「将来は俳優になりたい」や大学では勉強にも励んでビジネス界を希望する選手もいる。
まずは悲願の1部入りへの基礎を築きたい。5月30日、山梨学院大との練習試合へ準備を進めていく。