ラグビーリパブリック

「好きなことで目標の場所へ」。五輪へ向かう橋元教明レフリーが教え子たちに伝えたいこと。

2021.05.04

太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ・東京大会決勝での橋元教明レフリー。34歳。リオ五輪でレフリーを務めた大槻卓さん、川崎桜子さんに次いで3人目の大舞台を目指す。(撮影/松本かおり)


 東京オリンピックのマッチオフィシャルに選出されたとアナウンスされたのは4月17日だった。
 アスリートの祭典に参加できることは広く知られ、多くの人に声をかけられるようになった。

 橋元教明(のりあき)さんが言う。
「レフリーも見てもらえているんだな、と。(今年の五輪でセブンズのレフリーを担当できるのは)日本からは自分だけ。その責任を感じています。日本のレフリーの良さを出したいですね」
 5月1日、2日におこなわれた太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ・東京大会でも笛を吹いた。
 五輪開幕まで80日あまり。選手たちと同じように準備を進めている。

 南京都ラグビースクールで自身もラグビーをしていた。途中、小学4年生のときから中学時代は野球に興じるも、京都成章高校入学後にふたたび楕円球を追った。
 ボジションはLO、花園にも出場し、高校3年時は全国大会でベスト16になっている。

 京産大ではラグビー部に入らなかった。父・信一さんがレフリーをしていたこともあり、自分も興味があったからだ。
「高いレベル、海外を目指すなら早く始めた方がいい」と周囲からアドバイスを受けたこともあり、ホイッスルを持ってラグビーを支える道を選んだ。
 日本協会のレフリー育成システム(アカデミー)のメンバーにも選ばれ、海外留学も経験する。順調に力を伸ばした。

 ワールドラグビー セブンズシリーズ2016-2017から、同大会でレフリーを務めた。同シーズン、翌シリーズと計8大会で経験を積んだ。
 翌年はアジアセブンズシリーズで場数を重ねる。2019-2020シーズンからコロナ禍の影響を受けてセブンズの国際大会は開かれなかった。
 そんな状況の中、実績を評価されて自国開催五輪の舞台に立つ機会を得た。

 2016年のリオデジャネイロ五輪でレフリーを務め、現在は日本ラグビー協会技術部門セブンズレフリーマネージャーの大槻卓さんは、今回の橋元レフリー選出を「タスキをつなぐことができて良かった」と話す。
「セブンズでは、選手同様にアスリート性の高いレフリーが求められています。実際、世界を見ても背が高く、足が速い人が多い。その点でも(橋元レフリーは)向いていると思います」

 体躯だけでなく、セブンズの魅力を引き出す感覚を持っていることも大きい。
 大槻マネージャーは、15人制と7人制では「競技特性が違う」と話す。
「(セブンズの)面白みを引き出すレフリングが求められます。だから、スピード感を殺すプレーには厳しい」

 橋元レフリーは、その点を十分に理解して笛を吹く。
「セブンズはテンポが大事。15人制ではアドバンテージをうまく使いながらゲームを継続させますが、セブンズは(反則があればすぐに笛を)吹くことが(攻撃側の)アドバンテージになります」

 今季もトップリーグの試合を担当している。
 スクラム時などに選手と話すことも多く、マネージメントも必要な15人制と、7人制を担当する時の切り替えは難しい。
 しかし、セブンズ日本代表の合宿への参加や、海外セブンズの映像研究などを通して感覚を維持する。

 トレーニングも、スプリントの量を調整して両競技に対応している。
「セブンズの世界的プレーヤーのスピードは凄い。走るコースや動き出しを工夫して対応しています」と話す。

 普段は、京都市立洛央小学校に勤務する先生。レフリー活動の影響で学校を留守にすることも少なくない。「周囲の先生方にカバーしていただいて、本当に感謝しています。『帰ってきた時には、子どもたちに(経験を)いろいろ話してあげてね』と言ってもらっています」
 自分の学校の先生がテレビに映る。オリンピックに出る。子どもたちの笑顔が浮かぶ。

 教育者として、自分が教え子たちに夢を与える存在になれたら本望だろう。
「将来、あんな先生がいたな、と思い出してくれたらいいですね。好きなことをやり続けたら、目標としているところに行けるのかな。みんながそう思ってくれるようになったら嬉しいな、と」

 オリンピックは、レフリーの道に進んだからこそ踏める舞台と思っている。
 その幸せが現実のものとなる日が来たら、積み上げてきたものを全力で出し切りたい。大会を終えたら、体感した大舞台の感覚を多くの人に伝えたい。

Exit mobile version