躊躇しない。身長168センチ、体重90キロと一線級にあっては小柄も、ひと回り大きな相手の下半身へ何度も刺さる。鈍い音を鳴らす。
「タックルの精度があまりよくなくて。フィジカルの強いサントリーさんに対して、(相手の足などを)つかみ切れなかった、倒し切れなかったところがある。そこは課題かなと」
4月28日、東京は江戸川区陸上競技場。クボタラグビー部の岡山仙治が、サントリーとの練習試合へ先発フル出場した。
「自分としても久々の試合。練習してきたものを出せるいい機会。あとは、クボタの控えメンバーはボルツというのですが、このボルツで試合ができるのは楽しみだと思っていました」
控え組同士のバトルにあって、向こうはHOの北出卓也、CTBの梶村祐介ら代表経験者を多く並べる。対する岡山は、肉弾戦の要となるFLに入って「スピード、低さの部分(には手応えがあった)」。タックルの技術的な反省点こそ述べたが、ぶつかり合った感触へは一定の手応えをつかんだ。
「大学時代にテレビで観ていたような選手のなかでも、まぁ、(自身のレベルが)届かないわけでもない。少し、自信にはなった」
さりとて自分には厳しい。
「もし届いていなければ、僕がクボタにいる必要がないと思うくらいです」
大池中でラグビーと出会い、石見智翠館高を経て2016年に天理大の門を叩く。20歳以下日本代表の主将を任された3年時は、大学選手権で準優勝。4年時はチームの船頭役として全国4強入りした。
学生界でも大柄とは言えぬなかトップリーグのクラブへ誘われたのは、生来の激しさゆえだ。
世界中から猛者の集うトップリーグで存在感を示すべく、いまは「ブレイクダウンマスター」を目指す。「ブレイクダウン」と呼ばれる地上のぶつかり合いに焦点を絞り、技を極めたい。味方のボールを保護し、相手のボールを手元へ引き抜けるよう技を磨きたい。
フラン・ルディケ ヘッドコーチとの対話を経て、道しるべを定めた。
「まずはブレイクダウンマスターになることが、ステージアップにつながると(告げられた)。もし(今後)試合に出られるチャンスがあれば、きょうよりももっとブレイクダウンで活躍できたら。相手より低く入り、ボールをもぎ取る」
就任5季目のルディケは、周囲の日本人スタッフからも「先入観がない」と目される。
事実、伝統的にパワープレーの好まれる南アフリカの指導者ながら、母国で滅多に見られないであろう小さなFLの成長戦略を提示している。
岡山は指揮官を敬服する。
「全員に分け隔てなく1対1のミーティングをして、『こうした方がいい』を伝える。あとは練習以外の楽しい時間を混ぜて、チーム作り(を意識する)」
部内の「ブレイクダウンマスター」には他に、日本代表FLのピーター“ラピース”・ラブスカフニ、南アフリカ代表HOマルコム・マークスといった大型選手がずらりと並ぶ。
「いつもFWコーチのソークス(アランド・ソアカイ)、ラピース、マークス、(FL、NO8で出場する末永)健雄さんとブレイクダウンのジャッカル(相手の球に絡むプレー)の練習をさせてもらいます。パワフルな部分は尊敬します」
名手と切磋琢磨する「マスター」の候補生。今季初の4強入りを目指すルディケから、さらなる信頼を得たい。