スタンドから、最愛のチームの今季幕切れを、冷静に見守った。
4月24日、トップリーグ プレーオフ2回戦の試合が江戸川区陸上競技場で行われ、クボタスピアーズが、46-12でヤマハ発動機ジュビロを破って準々決勝に駒を進めた。
35歳を迎えたチームの顔、五郎丸歩はこの試合メンバーに入らなかった。理由は、コンディション調整のため。後進にジャージーを託してこの試合は自身の練習に励み、サポートに回った。五郎丸はすでに今季限りでの現役引退を発表しており、チームの敗退は五郎丸自身の選手生活の終幕を意味した。
ヤマハ発動機は2010年に強化縮小の危機に瀕し、その後2014年度に日本選手権優勝を遂げるまでに復活した、特別なチームだ。五郎丸はこの苦しい時期をチームにとどまって支え、引っ張ったリーダーだ。
五郎丸の名が一躍、日本中を駆け巡ったのは2015年。イングランドで行われたワールドカップで、南アフリカを日本が破ったチームで、重要な役割を果たした。日本34-32南アフリカ。世界スポーツ史上最大の番狂わせと言われたこの一戦の日本最初の目を見張る突破は五郎丸のランだった。キックの2点、3点を刻んで勝機をつなぐチームにあって、五郎丸のプレースキックはまさに勝敗を決めた。拝むような特徴的なキックルーティンが、日本のメディアやSNSに躍り、大会で躍進した日本を象徴するアイコン、時の人となった。
しかし五郎丸は、順風満帆、初めからエースとしてこのチームに招かれたわけでははい。
当時のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ(現イングランド代表ヘッドコーチ)が そのポジションに求めたのはアタック能力、とりわけスピードだった。五郎丸の持ち味はフィジカルとキック。しかし、本大会までの激しい練習と競争の中、五郎丸は自分の強みを磨いて指揮官の信頼を勝ち取り、戦力としても、チームを引っ張るリーダーの一人としても欠かせない存在になっていた。
ブルーのジャージー、赤白フープのジャージーの両方で、栄光もその影も知る人物だ。
五郎丸についてヤマハ発動機の大戸裕矢主将は言う。
「チームにいるだけで、周囲にいい影響を与えてくれる存在」
また大戸主将は試合後に、五郎丸についてこう触れた。
「直接何かをいうわけではないけれど、練習中に激しいエナジーを出していて、その気迫が僕らの刺激になっていた。体で見せてくれる先輩がいることで、自分たちもやらなければと思えた。五郎丸さんは今日で引退されるけれど、そのプレースタイルはずっと自分たちの中に残っていくと思う」
このゲーム、開始2分のヤマハ先制トライの起点になったのは、五郎丸のあと目を継いで背番号15をつけるルーキー、奥村翔。連続攻撃の中で巧みにキックを転がし、味方WTBのトライを演出した。後半31分にはキックカウンターから瞬足を飛ばしトライもあげた。
「ジャージーが着られて嬉しかった」と奥村。
五郎丸歩、最後の出場となったゲームは4月10日。熊谷ラグビー場でのパナソニック戦だった。
堀川監督は、試合が終わったから話すのですが、と切り出した。
「パナ戦の前半で肉離れを起こしていました。普通ならばリハビリにあてるところ。彼は最後までファイトしたいと、全体練習を志願してきました。昨日も、ケガをした身体で、ノンメンバーの激しい練習をこなして、ここにいます。最後まで体を張り続けた。最後の最後まで五郎丸らしく、チームのためにやってくれました」
スタンドからチームを見守る表情は穏やかだった。
ヤマハ発動機で、日本代表でアイコンとなった選手がきょう、伝説になった。
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