シックスネーションズが終わると、フランスは春を感じ始める。日も長くなり、サマータイムに切り替わる。例年であれば、スタジアムの観客の服装もダウンからTシャツになり、ここにも春を感じるのだが、今年は相変わらず無機質な空っぽの座席しか見えないのが寂しい。「敵チームのサポーターのヤジすら恋しくなる」と言う選手もいる。
フランス政府は感染拡大防止のため、3度目の外出制限と大規模なワクチン接種キャンペーンを実施、シックスネーションズの舞台であったスタッド・ド・フランスも、今は巨大なワクチン接種会場になっている。
そのスタッド・ド・フランスでおこなわれたスコットランド戦(シックスネーションズ最終戦)は、前週のウェールズ戦と同じように劇的な逆転ゲームとなった。ただし今回は、80分を過ぎてから逆転されたのはフランスだった。
昨年のシックスネーションズ、オータム・ネーションズカップに続き、今回も2位、一時は3位まで上がった世界ランキングも最終的に5位で終わった。
この夏にはオーストラリア遠征が予定されているが、実施されたとしても、昨年のアルゼンチンのように入国後2週間ホテルに隔離されることになれば、3勝するのは難しいのでは、と言われている。
今年はシックスネーションズ終了後、すぐにハイネケン・チャンピオンズカップの決勝トーナメントが始まった。通常、選手は代表チームでの活動後、1週間の休暇を与えられるが、今回はお預け。彼らも駆り出されての総力戦になった。
ベスト8を巡る戦いで、レンスター(アイルランド)との試合を控えたトゥーロンで1名のフロントローの選手に新型コロナウイルス感染症検査の陽性反応が確認されたのが、試合2日前の3月31日、水曜日のこと。すぐに大会主催者に伝えたが、何も連絡がなかったため、ダブリンへ移動。金曜日の試合開始5時間前に、フロントローの選手が全員濃厚接触と判断された。「日曜日までに新たにフロントロー2組を準備できるなら延期可能」と提案されたが、急ごしらえのフロントローで対戦できるわけもなく、試合は中止となり、トゥーロンはまたしても敵地に移動してから不戦敗という苦汁をなめることになった。
松島幸太朗の所属するクレルモンとワスプス(イングランド)の試合も中止の可能性があった。試合前日にワスプスのプロップに発熱症状が見られ、再検査の結果、陰性だったが、試合実施が告げられたのは、キックオフ1時間前だったという。「何人の陽性者が出れば中止とか、何を基準にしているのか、明確なルールがないのが、クラブにとってやりづらいところ」とクレルモンのフランク・アゼマHCは言う。
この試合で松島幸太朗は「ハイネケン・スター・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた。その活躍をレキップ紙は「WTBダミアン・プノーが処理しきれず自陣インゴールにこぼれたボールを蹴り出したり、ワスプスのFBマッテーオ・ミノッツィがあわやトライというところでノッコンを誘うなど、崩れかけていたチームを救った。そして最後に逆転トライ。クレルモンの救世主だ」と評した。
準々決勝に進んだ8チーム中5チームがフランスのクラブで、フランス代表と同様、フランスラグビーの好調さを示した。そして、そのうち3チームが3週間後の準決勝の切符を勝ち取った。まず、ラ・ロシェルがセール(イングランド)に圧勝。翌日、ボルドー(対ラシン92)とトゥールーズ(対クレルモン)が、激しいフレンチ対決をものにした。本大会で4度優勝している古参のトゥールーズとは逆に、ラ・ロシェルとボルドーは初の準決勝進出、大西洋の新風を吹き込んでいる。
とは言え、トゥールーズがクレルモンの地で勝ったのは19年ぶり。レキップ紙がこの試合の「TOP PLAYERS」に選んだのは、トライの無い試合で、PGで全得点を決めたSOロマン・ンタマックと、シックスネーションズから勢いを落とすことなく、セットピースに、ディフェンスに、ジャッカルにと目まぐるしく動くHOジュリアン・マルシャン、そしてクレルモンのSHモルガン・パラである。
パラは前週のワスプス戦でも途中出場で、大切な時間帯にチームを落ち着かせながら、巧みにゲームをコントロール、リーダーとして成熟した姿を見せた。「チームのパパ」とSOカミーユ・ロペスは言う。83分に松島幸太朗が同点のトライを決めた後、勝つためにはコンバージョンを成功させなければならなかったが、キッカーであるロペスのところに行き、「もし入らなくても延長になるだけだから」と声をかけたと言う。
トゥールーズ戦では、試合開始4分で負傷退場したロペスに代わってゴールキックも引き受けたが、冷静にチームを率いて、ぎりぎりまで希望をつないだ。
「エネルギーが足りなかった。後半はペースが落ちて受け身になってしまった。ペナルティを繰り返し、3点、また3点と重ねられた」と試合を振り返った。
この試合は、現フランス代表であるアントワーヌ・デュポンとのSH世代対決も注目されていた。試合後、「デュポンは未来だ。彼もンタマックも才能がある選手。このペアは世界最強のハーフ団に入ると、自信を持って言える」と微笑みながら答えた。
ボルドー対ラシン92も試合は拮抗し、82分にボルドーのSOマチュー・ジャリベールが55メートルのPGを決めて勝利をもぎ取った。
クリストフ・ユリオスHCは、「見ていて楽しい試合じゃなくて申し訳ない。でも決勝トーナメントは、ラグビーができることを見せる試合ではなく、勝てることを見せる試合。この試合はその極めつきだ」と試合後の会見で述べた。
最後の瞬間をスタンドから見守っていたキャプテンのPRジェファーソン・ポワロは、「僕らが準々決勝に進出したのはサプライズだったことはわかっている。ここに残っているのは偶然じゃないということを見せたい」と気持ちを引き締めた。
ここからフランスの国内ラグビーは一気に加速する。トップ14もプレーオフ進出と来季のチャンピオンズカップ出場をかけた上位6チームの座をめぐり、さらに緊迫したゲームが増える。ますます目が離せなくなる。