ヤマハのNO8へ入ったクワッガ・スミスが、劣勢局面でも力を示す。
7人制、15人制の両方で南アフリカ代表(15人制では6キャップ=代表戦出場数)となった身軽で激しいボールハンターは、4月10日、ジャパンラグビートップリーグの第7節に出ていた。
19-41とリードされていた後半32分頃、自陣ゴール前左中間の接点でターンオーバーを決める。直後に味方がパスを乱し再びピンチを迎えるも、約3分後、またも相手の手元から球を引き抜く。
「自分の能力をチームのために発揮する」
チームは苦しめられた。戦前まで5勝1分と好調なパナソニックに、前半29分までに0-21とされる。一時は生来のシステムを駆使した展開攻撃で12-21と迫るも、後半4分頃、自陣22メートル線付近左で相手のキックを触ってタッチラインの外へ出してしまう。
直後のラインアウトから攻められ、この日合計3トライのCTB、ディラン・ライリーにフィニッシュされる。12-26。ここから、相手のホームでもある埼玉・熊谷ラグビー場でタフな時間を過ごしたのである。
ヤマハのLOで日本代表16キャップのヘル ウヴェ ゲーム主将は「まずはボールキープをしよう。ヤマハスタイルをやっていこう。そう話すことで、前半の最後のほうにはいいプレーができた。ただ、後半の最初にいいプレーができなかった。ここに学びがあった」。パナソニックのHOで日本代表66キャップの堀江翔太ゲーム主将は、試合中に防御を修正したと達観した様子で述べる。
「(失点が重なったのは)前半、終わりくらいですよね。ああなる(ヤマハの攻めが機能する)っていうのは、1週間の準備のなかで言い続けてきたことで、1回、2回くらいはあるやろうなと思っていたので、想定内って感じです。なので、すぐ修正はできました。ヤマハのアタック自体がワイド、ワイドに(パスを)振るので、それに対して『そこを、もうちょっと、こうしよう』『そうしたら、こうなるから、それは、やるな』と。その詳しい部分は…企業秘密です」
スミスの好プレーが重なった試合終盤の場面でも、最後はパナソニックがボールを取り返して得点している。
「(シーズン序盤は)自分たちのスタイルを『なんとなく』理解している部分がありました。でもいまは、なぜここにボールを動かすのか、なぜここにポジショニングするのかを理解、実行できるようになっている」
敗れた堀川隆延監督兼ゼネラルマネージャーは、19-55での敗戦にも光明を見出す。スミスはこうだ。
「相手にチャンスを与え、いいプレーをされた。自分たちの強み、チャンスを活かせばもっとプレーできたとは思いますが、そうはいかなかった」
2018年まで5季連続4強入りも、今季はリーグ戦のホワイトカンファレンスで3勝4敗と負け越し。8チーム中6位と足踏みした集団にあって、3年目のスミスは気を吐いてきた。
本拠地の静岡・ヤマハスタジアムでの第4節(3月14日)でも、キヤノンに32-40と敗れるまで最後まで地を這った。パナソニック戦でも後半30分、自身にとって今季3つ目のトライを決めている。
いったいなぜ、苦境に追い込まれながらも力を発揮できるのだろうか。
そう聞かれたスミスの答えは、簡潔だった。
「皆が100パーセントの力を発揮しても、1人が仕事をできないとうまく試合が運べなくなります。細かいことを気にするのではなく、自分がチームのために何ができるかを考えながらプレーします。きょうはミスもありましたが、そのことについてはゲームから学び、次のゲームに向けて改善します」
身長180センチ、体重94キロ。国際舞台にあっては平均より小柄も、やや曲がった鼻を献身ぶりの証とする。
4月24日、東京・江戸川区陸上競技場でのプレーオフトーナメント2回戦ではレッドカンファレンス3位のクボタとぶつかる。これ以降のノックアウトステージでも、「スタイル」を貫くべしというクラブの要望に応える。
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