ラグビーリパブリック

スタイルを体現する人。サントリー下川甲嗣、デビュー戦ファーストタッチ初トライの裏側。

2021.04.12

NTTコム戦の後半22分、バレットとともに入替で入った下川。ケレビに迎えられる(撮影:松本かおり)


 先輩方にもみくちゃにされた。サントリーの2021年度入社組の1人、下川甲嗣が公式戦でデビューするやファーストタッチで初トライを決めた。

 4月11日、東京は駒沢オリンピック公園陸上競技場。国内ラグビートップリーグの第7節で後半22分から出る。手荒い祝福を招いたのはその約1分後だ。

 開幕6連勝中のサントリーが敵陣ゴール前右中間での自軍スクラムで反則を誘うと、塊の後列にいた下川が球を持つ。「行け!」。早大時代からの先輩で、味方SHの齋藤直人に促される。走る。

 最後は、前節まで3勝2敗1分としていたNTTコムの防御を引きずる。インゴール中央へなだれ込む。

「スクラム(の全体が)が回って、ペナルティをもらった時、自分の下にボールがあった。それを拾い上げたら、目の前が空いていたというか、行けそうな感じがあった。そこで齋藤先輩から『行け』という言葉があって…」

 ノーサイド。94-31。

 サントリーは2度にわたるインターセプトからの被トライなどで計31失点も、エリアを問わず球を継続する意欲と要所でのモールによって前半までに45-10と大きくリードする。

 マン・オブ・ザ・マッチを受賞したWTBの江見翔太は、開始3分を皮切りに計3度フィニッシュ。前半12分には味方キックオフを捕球し、そのまま走り切った。下川と同じタイミングで出場したニュージーランド代表SOのボーデン・バレットも3度、インゴールを割った。

 結局、2010年度の豊田自動織機戦での92得点(92-8)を超えるトップリーグでのチーム最多得点を記録。今季ここまでのトップリーグ全試合における、最大得点レコードも更新した。

 サントリーはレッドカンファレンスを7戦全勝の1位で抜け、24日から参戦予定のプレーオフトーナメントへ弾みをつける。下川は言葉を絞る。

「きょうはトップリーグ最終節。チームとしては絶対に勝って(レッドカンファレンスを)1位通過しようと話していたなか、(自身が)メンバーに選んでいただいた。このチャンス。自分のプレーを全面に出して頑張ろうと思いました。…チームとして勝てたことが、嬉しいです」

 身長187センチ、体重106キロ。福岡の修猷館高時代は全国大会とは無縁も、強豪の早大へ進んで1年時からNO8でレギュラーとなる。LOへ転じて2季目の3年時には、クラブ史上11季ぶり16度目の大学日本一に輝く。副将を務めたラストイヤーも、大学選手権で準優勝した。

 その間、ジュニア・ジャパン、U20日本代表にも選ばれている。何より、その経歴とは無関係にサントリーから惚れ込まれた。

 早くから下川の獲得を検討したクラブの関係者は、今回注目されたタフガイのよさを以前から「ジャッカルされない」と説いていた。

 ボール保持者としてタックラーと対峙すれば、フットワークを利して相手の肩からわずかに逃れる。ぶつかってからはそのずれを利用し、わずかずつでも前に出る。結果的に倒される際も、手にした球を味方の側へ置く…。下川は持ち前のボディバランスを活かし、その動作を繰り返す。

 守る側にとっては、攻防の境界線を下げられながらボールから遠ざかる格好。接点で球に絡むジャッカルは、ややしづらくなるだろう。その「ジャッカルされない」という下川の資質は、速いテンポで攻め続けたいサントリーには不可欠かもしれなかった。

 当初、今年の1月開幕予定だったトップリーグは、2月からのシーズンの只中に年度をまたぐ。2021年の4月1日付で加わった選手は、4月3、4日の第6節から出場解禁されていた。

 過去優勝5回のサントリーは、豪華戦力を擁する。ルーキーの顔ぶれも多士済々だ。下川と同じFW3列には、明大前主将で2020年にはサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに参戦)の練習生となった箸本龍雅がいる。2月にチームへ合流していた下川も、この調子である。

「ずっと(早く試合に)出てやるぞという気持ちはありましたが、いざ言われると、まさかこのタイミングで…という感じです。たぶん、いろんな事情があって自分にチャンスが来たのですが、いまのままだと箸本龍雅と比べてもまだまだだと思っていた」

 ミルトン・ヘイグ監督もまた、下川抜擢を含めたこの日の選手選考についてこう説いていた。

「チームにけが人が出ていたなか、下川はマルチにFWのポジションをプレーできた。彼は器用な選手で、(練習を通し)コーチからもいいフィードバックが出てきていたので起用することになりました。今季は部内競争をしてきた。きょうに関しては(各選手の)ゲームタイムのバランスを考えて、選手をセレクトした。スコッドとして、いい仕上がりになっている」

 クラブはこの午後、分厚い選手層を首尾よく運用したと言えそう。

 ただし下川は、こうも意気込んでいる。

「メンバーに入ったからには、チームの一員として責任を持ってプレーをしなくてはいけないと思いました」

 初陣で躍動し、厳しい生存競争へ改めて踏み出した。


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