ラグビーリパブリック

身長172㌢、好調クボタで先発。海士広大に見る上位チームの「勝つ資格」

2021.04.11

東生野中−常翔学園−同志社大の海士広大。172㌢、102㌔はトップリーグのPRとしてはかなり小柄なほう(撮影:松本かおり)

 カツシカク。

 2021シーズンのトップリーグ、リーグ戦終盤もラグビーの試合が面白い。これまでこのリーグを熱心には見ていなかったラグビー好きの皆さんも、「トップリーグ、面白いね」なんて言い合っている。前回までだっていい試合はたくさんあったが、今年は「あたり」の試合が多い。すべては高給取りの海外一流選手たちのおかげか。そうでもない。

◆WTB山崎洋之のトライを喜ぶ海士広大

 たとえばスコアだけ見ると結構な大差になる試合も、前半は接戦であることは多い。ハーフタイム、この試合は後半、点差が開くかな? このままもつれて楽しいゲームになるのかな? それはチャレンジする側のチームのある違いによる。

 カツシカク。

 葛飾区ではなく「勝つ資格」。80分のうち60分くらいまでがんばれるか。実績のあるチームを向こうにそんな展開に持ち込めれば、最後まで見られる試合になるだろう。さらに上をいき、最後までどっちに転がるか分からない面白い試合にできるか、は、両チームに「勝つ資格」があるかにかかっている。

 前節、4月3日のサントリーvsクボタは、33-26の7点差をクボタが最後まで獲りにいく熱戦になった。前半37分には、サントリーのリードは23-7になった。単に倍すれば56-14のゲームになる。しかし、この試合は違った。

 一見、チームのメインはピカピカの外国人選手。そこに隠れた主役が数多くいるチームはスコアで離されにくい。勝つ資格の一つだ。

 たとえばクボタには山崎洋之がいた。

つくしYR-筑紫-明大の社会人2年目、WTB山崎洋之(撮影:松本かおり)

 背番11のウインガー、山崎は仲間のミスを無かったことにする。そう持っていく。ある時、味方BKが自陣からのハイパントを失敗。浅い位置にキックが飛んだ。「なにやってんだ」。そうした表情は誰からもうかがえず、皆がフォローに回った。ここで出色の反応の速さ、決然さでボールを押さえ突破を図ったのが山下だ。タックラーをすり抜け相手陣へ。大きなチャンスとなり、初めのハイパントのミスはプロセスになった。

 一つ、ひとつのプレーにチーム感が宿る。                                                           

 クボタではPR海士広大(かいし・こうた)の働きも目を引く。

 前半終盤、サントリー23-7クボタの時間帯。チームがしんどい時にオレンジジャージーのタックルが相次いで火を噴いた。背番号は2と1。南ア代表HOのマルコム・マークスと、身長172㌢の1番PR、海士だ。

 この日、サントリーとはスクラムでもやり合いが続き、消耗は普段の試合以上だったはず。海士はその中でも、かつてCTBの経験もある機動力を発揮し、チームの厳しい時間帯に、自分の役割をしっかりこなしていった。

 後半12分にはハイライトがあった。サントリー26-14クボタと、差を詰めクボタ反撃の狼煙をあげたトライはFLトゥパ フィナウのもの。その一つ前の布石のアタック。

 マークスが189㌢、117㌔のボリュームでゴール前の突進。相手ディフェンスラインの真ん中に食い込む。相手ディフェンダーが絡まってボールの周りは小さな塊になる。それがゴール方向に急加速した。後ろからマークスを後押しした背番号1の仕事だ。実際は後押しなどという穏やかな動きではない。海士はボールを持った味方に後ろから走り込み、腰を激しく当て腕でバインドして前進。そのまま味方の前に出ていき、塊を今度は牽引した。ほんの1秒ほどの出来事だ、前進の距離はわずかだ。けれど相手ディフェンスのダメージは大きい。そこからスムーズに出されたボールの渡った先が、トライスコアラーのフィナウだった。

「サントリー戦は、今季いちばん悔しい出来の試合でした」と海士本人は振り返る。

 選手として4シーズン目、先発に名を連ねるようになって3年、常に危機感がある。

「自分は体も小さいので、人よりもたくさん仕事ができないと貢献できない。社会人入りたての頃は怒られてばっかりでした」と笑う。

「地面に倒れたらすぐに起きて動き出す。それを測る数値がチームにあるのですが。チームのトップはいつもLOのブルブリング」

 海士は、ポジション関係なしで設定されているこのチーム基準を、いつも超えてプレーできるようになった。

 セットプレー、ルーティンとなる攻守の役割。チームで最重要視されるのはまず個々がやるべきことだ。海士はそこをクリアし先発に入るようになった。今季はすぐ隣の位置に「世界最強HO」と呼ばれるマークスが入り、また刺激を受けている。

「スクラムの中でも、こちらへの要求は高いです、やっぱり。はじめはびっくりするようなこともあるけれど、それに応えようともがく中で得るものがあって」

 ラグビーファンも待ちに待った2021シーズン、選手にとっても長い長い準備期間を過ごした最後のトップリーグで、クボタは堂々、上位を進む。話題となった会場でのチームシャツ配布の効果もあるのか、チームの戦いぶりに、観客の空気は節を重ねるごと「気持ちオレンジ寄り」になっている。これはクボタだけではなく、好勝負のフィールドには大選手だけでなく好選手がいる。味方の失敗をなんとかカバーしたり、チームの15分の1を占めるその番号のぶん、精一杯できることを探し奔走する選手がいる。こうして、勝つ資格を備えたチーム同士のゲームは目の離せないものになる。

 トップリーグが変わったように見えるのは、一流選手が来たからだけではなく、そこにいた選手たちの長い期間の努力が今、続けて花開いているからだ。

 海士広大はサントリー戦で後半33分に入れ替えでピッチを後にした。あまりの酷使に両足が痙攣を起こしてしまった。海士自身がこの試合を「出来は良くない」と振り返る最大の理由だ。「最後までピッチにいたかったし、いるつもりでした」。

 ひょこたん、ひょこたん、ひょこたん。ピッチを出る時、海士はいうことを聞かない足を引きずるように走ってタッチラインに急いだ。表情は照れ笑い。「早く出な、と思って。試合を切ったら悪いんで」。スコアは26-26の同点で残り7分の緊迫した場面、ユーモラスな海士の動きに「ゆっくりでいいよ」と会場じゅうのファンがきっと思った。強いラグビーチームにはこんな魅力も備わるものなんだ。

 クボタはきょう、カンファレンス内の2位3位に同勝ち点で並ぶトヨタ自動車と直接対決、キックオフは13時。勝ち点で5上回る首位サントリーもNTTコムとの試合を13時に開始する。

WTB山崎洋之のトライを喜ぶ。左は海士広大(撮影:松本かおり)
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