なぜ、いま国内最高峰のトップリーグでプレーできているのか。答えは明確だった。
「自分は在日韓国人なのですが、そういう面でいっぱい応援してくれる方々もいる。自分の『やってやろう』という気持ちと応援してくれる人の気持ちが重なったおかげで、本当にいい状況で臨めます」
金秀隆。2020年度にクボタへ入った大卒選手10名のうち、唯一の下部リーグ出身者だ。
2019年度まで加盟する関東大学リーグ戦2部を7、8、8、7位で戦い終えていた朝鮮大の3年時、1部のチームも参加する「第32回関東大学ラグビーフットボール連盟セブンズ大会」で活躍。クボタの石川充ゼネラルマネージャーに見出された。
トライアウトを経て入部すれば、「人より練習するのをモットーに」。自身と同じFBを担う先輩方の動きを見て、基本的なポジショニングから学ぶ。2021年2月からのシーズンでは、ここまでの全6試合でスタメンとなって2トライをマーク。開幕5連勝に喜ぶ。
4月3日には、東京・秩父宮ラグビー場での第6節に挑む。サントリーとの全勝対決だったこの一戦は26-33と落とすも、自身は後半18分に光を放つ。敵陣中盤左でパスを受けると、鋭いフットワークで防御網をえぐる。明大卒で同期の、山崎洋之のトライを招く。
身長186センチ、体重90キロと体格に恵まれストライドが大きく、ニュージーランド代表のダミアン・マッケンジーのプレー動画を参考にステップの間合いも磨く。
「多く試合に出るほどに自信もついて、スキルが上がっている。特にカウンターアタック(キック捕球後の攻め)で、他の選手と差を生んでいます。接点、コリジョンも強いです」
就任5季目のフラン・ルディケ ヘッドコーチにはこう背中を押され、成長曲線を駆け上がる。
「トップリーグのレベルの高さを痛感している部分と、少しは自分でも通用する部分があると感じている。いま自分ができていないことは、これからの試合でできるようになっていったらいいと思います」
東大阪朝鮮中でラグビーを始めた。大阪朝鮮高では2年時に全国大会の舞台を踏んだが、有力選手がスカウトされる全国屈指の強豪大へは進まなかった。
「東京朝鮮高、大阪朝鮮高、愛知朝鮮高(のラグビー部)の高校生たちがひとつになれば、リーグ戦1部で戦えると思っている。その文化を作りたく、朝鮮大を選択しました。朝鮮大に入学した時から、トップリーガーになりたいと思っていた。他の大阪朝鮮高の選手がいろいろな大学を経てトップリーガーになっているなか、自分は朝鮮大から行きたい…と」
たとえ下部リーグにいても必ず上位クラブに招かれ、いずれは日本代表を目指す。そんな想念を抱き、そのうちのひとつはすでに具現化している。
「スポーツの力って、大きい」
本人が強調したのは、かつてプレーした大阪朝鮮高ラグビー部の話題に触れた時だ。
社会的な背景もあってか、同部の部員数は減少傾向にある。前年度は、3年生の部員数が21名なのに対して2年生以下は2学年合わせて18名だった。もっとも昨冬には、2010年度以来の全国4強入り。明るいニュースを届ける。
一連の流れを受け、いまを時めくトップリーガーはいちOBとして述べる。
「だんだん(部員が)減っていっているのは非常に残念なこととは思っていますが、それでも、スポーツの力って、大きいと思うので。昨季ベスト4に行ったように結果を残したら、また部員が増えてくると思う。期待しています」
自らもその走りで、同胞の声援に応える。「スポーツの力」を証明する。
11日には大阪・東大阪市花園ラグビー場で、トヨタ自動車との第7節に先発する。
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