空、芝、両軍の黄色と橙のジャージィのうち、黄色の背中に黒で「10」と刻んだサンゴリーのボーデン・バレットがひときわ輝く。一方で泥臭い仕事の数々、各自の笛への適応ぶりもスコアに影響した。
4月3日、東京は秩父宮ラグビー場での国内トップリーグ全勝対決は33-26で終わる。惜敗したクボタのピーター“ラピース”・ラブスカフニは、ぶつかり合いでひたすら際立った末にこう総括した。
「サントリーは前半、特にブレイクダウン(接点)で圧力をかけてきた。そこを我々は(後半に)よくした。それも含めてラグビー。お互いに競り合って、良い判断をして、今後も楽しんでやっていきたいです」
過去優勝5回のサントリーは、4強入り未経験のクボタが防御で前に出てくると想定。ハーフタイムまでに23-7とリードできた背景を、インサイドCTBで日本代表の中村亮土主将がこうひも解く。
「すごく前に出てくるのはわかっていた。(圧力の薄くなる)外(のスペース)を攻めたり、相手のラインオフサイド(防御ラインに入る選手が攻防の境界線より前でプレーする反則)を取ろうとしたりしようと、準備段階で話していました」
まずは敵陣10メートル線付近右のラインアウトから左側へ展開させると見せつつ、右側の狭いスペースへ複層的な仕掛けを施す。前進。テンポよく左側へフェーズを重ね、強烈なタックルを浴びながらも接点で球を確保する。まもなく、前がかりなクボタの反則を引き出す。3-0。
3-7と勝ち越されていた19分にも、中盤で攻めるなかでオフサイドを誘って6-7とする。そこまでで2本のペナルティゴールを決めたバレットは、流れのなかでもニュージーランド代表88キャップの看板にふさわしかった。
やはりクボタのラインオフサイドで敵陣の深い位置へ入れた前半25分、敵陣22メートルエリア右中間から左へのキックパスで逆転トライを演出。11-7とした。
さらに16-7として迎えた同37分には、自陣10メートルエリアで激しい圧力を受けながら前方へキック。弾道を追ったFBの尾崎晟也にこの日2本目となるトライを決めさせ、直後のゴールキック成功で23-7と点差を広げた。
バレットは徹底マークの対象だからか、球を手放した瞬間もたびたび激しく倒された。それでも平然と立ち上がり、次のプレーに加わる。優雅に映るうえに逞しかった。
「自己中心的にプレーするのではなく、チームプレーヤーでありたい。リンクプレーをしながら、仕掛けるところは仕掛けるというプレーができていると思います」
ハーフタイム。クボタは攻撃中の接点を見直す。前半は要所でサントリーのHOの中村駿太、FLの小澤直輝のジャッカルに攻めを寸断されていたからだ。
何より、前半だけで9個も犯した反則を減らしたい。特にラインオフサイド。看板たる防御の圧力を保ちながらも取り締まりの対象外となるよう、インサイドCTBの立川理道主将はこう話し合った。
「サントリーにはラインアウトのデリバリー、ハーフからの球出しのテンポにバリエーションがあった。その、デリバリーのタイミング(接点から球が出る瞬間)だけをしっかりと見る(と意識)。あと、ラインのオフサイドはハーフバックして(従前より半歩下がったうえで)、同じようにディフェンスしようと話しました」
各種の改善を追撃につなげたのは、19点差をつけられた後半12分以降だ。
クボタは14分、敵陣ゴール前で好機をつかんで26-14と迫る。そのきっかけは、グラウンド中盤での防御だった。鋭く飛び出したクボタは一切とがめられず、逆にラブスカフニらのジャッカルがサントリーの規律を狂わせた。通称ラピースはこうだ。
「前半は自分たちが圧力をかけられてペナルティを与えた。ただ、後半はやれると信じてやった。機能したのはマインドです」
続く18分には、自陣からの連続攻撃で魅する。
ニュージーランド代表48キャップのアウトサイドCTB、ライアン・クロッティが一連の動きのなかで何度も有効打を放つ。自陣深い位置での相手と間合いを取っての突進、同中盤におけるストレートランからの左へのパス、敵陣10メートルエリアにできた接点の脇への走り込み…。フェーズは連なり、最後は新人WTBの山崎洋之が左端を駆け抜けた。26-21。
クロッティは、クボタが流れを変える12分から他の2選手とともに投じられていた。大胆な交替策に出たのは、フラン・ルディケ ヘッドコーチだった。
「後半はスコアで追いつきたかったので、タイミングを見てミッドフィールドのところに立川とクロッティを並べるようにした。彼らは勇気を持ってアタックしてくれた」
総力戦の意志は後半29分の同点トライも生んだが、クライマックスはサントリーの時間が続いた。
バレットはFBへ回って9分後にあたる残り2分で、自らの7得点により33-26と勝ち越す。その際に攻撃権を得られた一因は、クボタでSOに入る岸岡智樹へFLの西川征克が仕掛けた猛チャージ。タッチキックの飛距離を短縮させにかかっていた。
バレットのスコアの約1分後には、クボタのスクラムからの攻めへ対抗したサントリーがオフサイドと判定される。
しかし、ラストワンプレーではクボタの敵陣22メートル線付近右での塊をサントリーが襲う。タッチラインの外へ押し出す。ノーサイド。
「自分としてはモールの後ろでボールを持って行けていたと思ったら、外に出されていた…と。自分のなかでは(サントリー側の)サイドエントリー(密集へ横入りする反則)ではないかと思うところもありましたが、映像を見て、修正できるところは修正したいです」
現役日本代表きっての紳士であるラブスカフニが珍しく判定に疑問を唱えたのは、勝機をつかみながらも星を落とした悔しさからか。ルディケ体制5季目でようやく上位に躍り出たクラブにあって「環境が健全。各自がいろいろと貢献し、チームに価値をもたらしてくれている」とし、「今後、また同じチャンスが来たら、違う結果になる」。
世界トップの選手と国内組が高次元でシンクロするのは、長らく優勝争いを演じてきたサントリーも同じだった。
この午後の主役たるバレットは「最後の10分、チームとしてコネクトして勝てたのがよかった」。試合後のオンライン会見では、「特に以前と比べフィットしてきた…という感覚ではないです」。確かにその領域は開幕時にクリアしていて、この日も小澤や西川ら黒子役と一個の生命体を形成していた。
今度の全勝対決でクボタが接戦を演じた裏にも、サントリーが接戦を制した裏にも、その根拠が見え隠れしていた。
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