今季13年目。宗像サニックスブルースのSO田代宙士(たしろ・ひろし)がマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは3月28日だった。
雨のパロマ瑞穂ラグビー場で、Honda HEATに25-24のスコアで競り勝つ。田代はキックを使ってゲームをうまく作った。2G2PGで10得点を挙げた。
今季5戦全戦に出場し、3試合目の先発だった。風下だった前半、キックチャージからトライを許すも、ロースコアの展開に持ち込んだ。
「相手が独特なキックチェイスをしてくるのが分かっていたので、蹴り合いにはならないようにしました。ハイパンからプレッシャーをかけるようにした」
それがうまくいった(3-10)。
後半は「好きな風でした」。追い風が、右に抜けるように吹いた。
「(キックで)うまく敵陣に入ることができました。FWが頑張ってくれたこともあり、スペースが見えて、うまく蹴れた」
敵陣で戦えると勝利に近づく。FWがモールからトライを重ねて逆転すると、終盤の追い上げを振り切って今季初勝利を手にした。
生え抜きで13年。プロとして長くプレーできているのは、長い期間チームに必要とされている証拠だ。経験を重ねて成長した。
チームが一貫してアタッキングを志向する中で、司令塔として変化がある。
「以前はパスばかりしていたような気がします。いまは、状況を見てキックを使える。若い時より余裕を持てていて、周囲が見られるようになりました」
ボールを保持し続けるスタイルとキッキングゲーム。両方に対応できるようなプレーの幅を持った。
円熟味は増したけれど、アグレッシブさが変わらない。それが、この人の持ち味だ。
スレスレのプレーを好み、パスを受けた者が相手とすれ違い様に抜けるようなプレーで周囲を使う。ノールックパスもある。
それぐらいの仕掛けをしないとブルースは勝てないと思うし、それが成功したときはチームに勢いが出る。
自分のプレーと周囲が呼応するためにも、コミュニケーションを密にとる。互いに予測するプレーが一致すれば、冒険的なプレーの成功率も高まる。
5歳になる双子の父。「子どもたちの記憶に残るまではプレーしたい」という思いが、ここ数年のモチベーションになってきた。
それを実現させるためにも、食事を変えたり、体調管理に気を配るようになった。
プレーが安定した基盤には、そんな変化がある。
今季、8年ぶりに(サントリーから)宗像に戻った小野晃征とは同い年(33歳)で同じポジション。「競い合うというより、一緒にやろう。そんな感覚」と話す。
サントリー時代のこと、ジャパン時代のこと。
「なんでも聞いています。サントリーだったら、どうする? エディーさんはどういうこと言うの、とか」
いろんなことを吸収したい。足を止めないのがプロ。知識と経験を増やすのは、いまの自分にも、将来にも生きる。
4月3日のNTTコム戦(高知)で2勝目をつかみたい。その先の試合(対東芝/4月11日・北九州)にも勝って、トーナメント戦でも、できるだけ勝ち上がる。
その思いを実現させるためには、「試合の入りが大事」。10番を背負う者の腕の見せ所だ。
「毎試合のプランを実行するのが大事。そのためにも、試合の序盤、前半をうまく戦わないと。そうすれば勝ち試合にできる」
競って前半を終えれば勝てる。
後半は動き勝てると全員が思えるのは、走るチームならではの伝統でもある。
ただ、得点を整えにいってはダメだと田代は知っている。最初からアグレッシブに戦ってもつれさせてこそ、自分たちの勝ちパターンだ。