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クレルモン アゼマHCインタビュー 「マツは真のアスリートだ」。欧州制覇へ、松島に期待。

2021.04.02

松島幸太朗、チャンピオンズカップのワスプス戦は15番で先発。練習を見守るアゼマHC © ASM Clermont Auvergne


 松島幸太朗が所属するASMクレルモン・オーヴェルニュを率いるフランク・アゼマHC(ヘッドコーチ)。自身が選手時代プレーしていたチームにコーチとして帰ってきたのは、2010年。ヴァーン・コッターHCの下、BKコーチとしてスタートし、2014年からはHCとしてチームを率いてきた。彼が指揮を執った試合数は先週末のスタッド・フランセ戦で「364」。

 今年2月末に「選手たちは新しいメッセージを聞くべき時に来ている」と、2年の契約期間を残し今季限りで退任することを発表した。彼のことを語る現地の記事には、『誠実』『ハードワーカー』という言葉が必ず見られる。スタッフからは「彼のために頑張りたいという気持ちにさせる」と言われてきた。

 ヨーロピアン・チャンピオンズカップの決勝トーナメントに備えて準備中のフランク・アゼマが、コーチングについて、またASMクレルモンに今季入団して活躍している松島幸太朗について話してくれた。

(インタビュー・文/福本美由紀)


―― ASMクレルモンでの最後のシーズンですね。

「難しい決断だった。ここに来て11年。このクラブは僕に多くのことを与えてくれた。ここでバトンタッチして、今までとは違う新しい意見で、クラブと選手に新たな刺激を与えることが大切な時だと判断した」

―― 難しく、また勇気のいる決断ですね。

「自分自身に正直でありたかった。僕はこれまで選手に、『君との契約は今季で終了する』と言ってきた。選手がここで無駄なシーズンを過ごさないように。そのルールを自分自身にも当てはめなければならない」

――来季は。

「まだ決まっていない。オファーがあれば検討するし、今はいろいろ考えているところ。旅行もしたかったけど、コロナでそれも難しい。選手でも、コーチでも、学び続けることが大切。人は、他人と意見交換しながら学びを得る。今はその段階」

―― 11年間クレルモン、その前は4年間ペルピニャンでコーチをしていますが、その間ずっと学びながら過ごしてきたのですか。

「最初にペルピニャンのアカデミーで若い選手といろんなことを試し、多くを学んだ。その後、ペルピニャンのプロチームのコーチになり、そこでも学び続けることができた。また、僕は旅行が好きで、日本にも行けたし、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカにも行くことができ、プレーやマネジメント、自分自身について考え直すことができた。今はインターネットというツールがあるが、旅先での出会いから得る学びは大切」

―― オーストラリアやニュージーランドへの旅行は、トレーニングメソッドを研究するためですか。

「生き方、仕事の進め方なども含めて。同じラグビーでも国ごとにカルチャーがあり、それぞれの見方、伝え方がある。こだわる部分も土地によって異なる。見る角度が変われば、フィルターも変わり、見えてくるものも違ってくる」

―― コーチという職業は伝える職業と言われますが…。

「この職業は情熱と伝達の職業。選手に知識や経験、そして情熱を伝える能力が必要。選手が成長していけるように、日々彼らに与え続けなくてはならない。また、グラウンドで判断するのは彼らだから、選手が自立して責任を持てるように導く必要がある。プレッシャー下でも素早く対応し、選手全員が共通の答えを見つけなければならない。そのためには選手同士が同じ認識を持たなければ」

―― 同じ認識を持つには、繰り返しが重要?

「しっかり実行できるように、試合と同じ条件で繰り返すことが必要」

欧州16強の戦いへ。指導に熱が入るクレルモンのアゼマHC © ASM Clermont Auvergne

―― そのために先週の合宿は役に立ちましたか。

「シーズン終盤の前にいい合宿ができた。ラグビーの面ではチームとしてまとまることができたし、各部門のディテールの大切さを確認した。チームで一緒に過ごすことができ、人間的な面でも結束できた。夜、一緒にトランプしたり、散歩したり、グラウンド外でのこういう時間が選手間のつながりをより強くしてくれる。これが最終的にチームの力につながる」

―― 今季はコロナでそういう機会が難しかった?

「グラウンド外で何かをする機会があまり持てなかった。試合に向かうバスの中だったり、試合の後でスタジアムで簡単な食事をとったりして、なんとかチームで共有できる機会を持とうとしてきた。この3日間の合宿で、みんなで一緒に食事をとり、一緒に時間を過ごすことができ、とても価値があった」

―― 心理的な面も考慮する。

「トレーニングの時とは少し違う関係を持つことで、スタッフや選手間でさらに良い関係が築ける。このグループはラグビー以外のことも一緒にできるのだと。僕自身もそうやって、選手やスタッフといい関係が築くことができる」

―― 松島幸太朗がクレルモンに着いた頃、定期的に個人面談をしていたと。

「マツはどちらかといえば控えめ、でもシャイではない。とても頭が良く、チームが目指しているラグビーをすぐに理解し、人のこともよく見えている。だからトップ14とは何か、何を期待されているのか、何が必要なのかを早い時点で理解し、フィジカルも適応させた。またシーズンを通じて安定したパフォーマンスをするためにはどうすればよいのかということも聞いてきた。そういう彼の質問からも、経験豊富な選手だとわかった。だからこそ、彼と協力していろいろなことに先回りして取り組むことができた」

―― 彼はチームに溶け込んでいますか。

「選手やスタッフととても良い関係を築いている。とても人懐こく、常にポジティブ。口数は多くないが、彼が発する言葉はいつも的確で鋭い。試合の準備をしてゆく中で、彼の発言はチーム内で重要に受け止められる。また彼はキックオフの笛が鳴ったら別人になる。マツは真のアスリートだ」

―― フランス語を話すようになりましたか。

「フランス語の授業は受けているよ。今はまだ使おうとはしないけど(笑)。チーム内に仲の良い友だちもできているから、そんなに時間はかからないだろう」

―― グラウンドでもチームに打ち解けてきているのが感じられますね。

「イキイキしているね。僕たちも、彼がこのチームでプレーしてくれることをとても喜んでいるし、彼のような気質の選手がチームにいることに誇りを感じている。彼の国のカルチャーを立派に体現しているよ」

―― 彼を発見したのはいつでしたか。

「彼がまだ若かった時、2015年のワールドカップ。その後、クラブチームでも代表チームでも、シーズンごとに成長していく彼の能力が目についた。そして2019年のワールドカップでは強烈な印象を残した。スピードのある選手を探していたが、それだけではない。ファイトするためのスキルとそれを実行する能力、またタックルゾーンやラック周りへのスピードもあり、キックもできる総合的な選手だ。さらにプレーから感じられる彼の気質が、この選手をリクルートしようという気持ちにさせた。周りとの呼吸もあってきて連係もスムーズになり、ますます彼の能力を感じる。今週末、ヨーロピアン・チャンピオンズカップの決勝トーナメントが始まるが、彼もワクワクしているのを感じる。試合のレベルが上がれば上がるほど、マツはのびのびプレーする。ますます力を発揮してくれるだろう」

 初のヨーロッパ王者を目指すASMクレルモン・オーヴェルニュは4月3日、イングランドのコヴェントリーでおこなわれる決勝トーナメント1回戦(ラウンド・オブ・16)で、ワスプスと対戦する。