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フランス女子代表トレムリエール インタビュー。「この10年の世界最高選手」は100%ビオ!

2021.03.31

2010~2019年までの女子15人制ラグビー最高選手に選ばれたジェシー・トレムリエール(Photo: Getty Images)


 新型コロナウイルスの影響で延期されていた女子シックスネーションズが、4月3日から同月24日に亘って開催される。昨秋の男子のオータム・ネーションズカップと同じ形態で、2プールに分かれ2試合ずつ実施後、決勝戦、順位決定戦がおこなわれる。フランスはアイルランド、ウェールズにプール戦で勝利し、イングランドとのファイナルが期待されている。イングランドとは、来年に延期されたワールドカップで同プールだ。ここまで準備してきた仕上がり具合を確認したいところだ。

 フランス女子代表チームには、世界屈指のFBがいる。ジェシー・トレムリエールだ。昨年12月、ワールドラグビーは、過去10年間の「プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」から、「プレーヤー・オブ・ザ・デケード」を選ぶ投票をファンに呼びかけた。投票の結果、男子15人制は、元ニュージーランド代表キャプテンのリッチー・マコウ、そして女子はジェシー・トレムリエールが選ばれ、フランス女子ラグビー界の明るいニュースとなった。

 トレムリエールは1992年7月29日生まれの28歳。180cm、73kgのスラリとしたシルエットで、正確なキック、カウンターのスピード、ディフェンス、ゲームの読みが評価されている。彼女は、フランス中南部、オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランから南へ60kmほど行ったところにある父親が経営する農場で生まれ育った。今も家族でビオ (有機農法)で牛の飼育をおこなっている。彼女の1日は牛の乳搾りから始まる。

 子どもの頃からスポーツが大好きで、2人の兄の後を追いかけて、テニス、ペタンク、サッカーに明け暮れた。ラグビーとの出会いは16歳、通っていた農業高校での体験ラグビーだ。その後、クレルモン=フェランから南へ7kmのロマニャのチームに所属。全国農業高校選抜、そしてU20女子フランス代表に選ばれ、2011年11月には19歳で女子フランス代表の初キャップを得た。まるでラグビーに選ばれたようだ。

 2015年に女子7人制代表選手として、フランス協会と契約。この機会にパリからTGV(フランスの新幹線)で2時間のレンヌに移籍した。2016年、リオデジャネイロ五輪に参加する。しかし、その後はケガに見舞われる。9月に腓骨を骨折。翌年には腰を痛めた。「リハビリは孤独で長くつらかった。出口の見えないトンネルのようだった」。しかし、それがターニングポイントになる。「世界のベストプレーヤーになる! そのために今こうして闘っているんだ!」。そう心に決めて、自分自身と闘い続けた。ケガを克服し見事に復活した元イングランド代表、ジョニー・ウィルキンソンの自伝を何度も読み、またケガから復活したアスリートのドキュメンタリー番組を片っ端から見た。

 2018年、フランスは女子シックスネーションズでグランドスラム(全勝優勝)を成し遂げた。フランスのグルノーブルでおこなわれたイングランド戦には1万7440人の観客が集まり、女子ラグビーの観客数の世界記録をつくった。トレムリエールは大会のベストキッカー賞とベストスコアラー賞を受賞。また、年末にはワールドラグビーアワードのプレーヤー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。フランスの女子選手では初めての快挙だ。
「待っているだけでは何も得られない。農業と同じ、闘って、時には順応し、転んだらまた立ち上がる。この強いメンタルがあったから、ここまで来れた。努力は報われる」

3年ぶりの欧州王座奪還を目指す女子フランス代表。中央がトレムリエール(Photo: Getty Images)

 2019年のフランス協会との契約更新時に、7人制から引退して、15人制に集中することにした。7人制代表、15人制代表、そしてクラブチームの3つを同時に続けていくのは簡単ではない。レンヌに在籍していたが、2試合しかこのチームでプレーできなかった年もある。
「パリにいても、心は故郷の農場だった。そんな気持ちでラグビーをしているとケガをする。外の世界を見たくて生まれ育った環境から飛び出した。特に7人制のおかげで自分では行けない国に行き、違う文化に触れることができ、視野も広がった。その上で自分には農場が、自然や動物と触れ合う時間が必要なのだとわかった。自分のキャリアは終わりに近づいている。私がラグビーの後にしようとしていることは肉体労働で健康な体が必要。ラグビー後の人生のことを考えなくちゃいけない。そっちは30年も、40年も続くのだから」

 パリから故郷のオーベルニュ地方に帰ったトレムリエールは、クラブチームも古巣のロマニャに復帰した。ロマニャは2016年、TOP14のこの地方の看板チームであるASMクレルモンとパートナー契約を結び、名称をASMロマニャとし、クレルモンのプロチームと同じイエローにブルーのユニフォームになった。平時であれば、ASMクレルモンのホームスタジアムであるスタッド・マルセル・ミシュランで試合をすることもあり、このパートナー契約はクラブに新たなスポンサーをもたらしてくれた。
 「うちの家族は熱烈なASM(クレルモン)のサポーターで、試合はテレビで必ず見ているの。マツシマ、とてもいい選手ね。驚くほど巧く対応している。彼はラグビーがしたくて仕方ないのね。プレーから感じる人柄にも好感が持てる。彼のプレー、お手本にさせてもらっているわよ」と、勉強熱心なトレムリエールは、同じFBの松島幸太朗を賞賛する。

 現在、フランス女子15人制代表には、彼女のような契約選手が30人を数える。(7人制は2019-2020シーズンで26人)。これは75%の時間を代表選手として活動するという契約で、代表チーム強化のためだ。しかし、ラグビーだけでも多大なエネルギーが求められ。また残りの25%の時間だけで雇用してくれる雇用主もなかなか見つからず、他の職業にも従事しているのは10人ほどというのが実情だ。
 フランスの女子ラグビーの人気はこの数年で上昇傾向だ。2020年9月30日の選手登録者数の前年比は、女子が17%増、男子が3.7%増。
「男子のアマチュアラグビーで2シーズン続けて死者が出る事故があり、親が心配してラグビーを避けるようになった。メディアでいいイメージを発信できなければ、ネガティブな反応がある。女子ラグビーはテレビ中継されるようになり、相手に当たりに行くのではなく、相手を交わしてどんどん動くプレースタイルを多くの人に見てもらえ、受け入れられたのだと思う」

 トレムリエールには、プレーヤーとしての活動だけでなく、2023年の男子ワールドカップに向けてのプロジェクトもある。フランス2023組織委員会のテーマは、『地産地消とエコロジー』。試合会場周辺で、地方の特産品を有名シェフの考案したレシピで作った料理を提供することを計画しており、彼女はそのアンバサダーになっている。「うちの農場で飼育した牛肉を観戦に来る人たちに味わってもらえれば」。すでに直接消費者に届ける形で販売を始めている。「ビオは高いというイメージがあるから、仲買のマージンをなくすことでコストを抑え、また直接消費者に触れることで、どのように飼育しているか、どんなエサを与えているかなど、私たちの仕事について、食の安全について、もっと伝えていきたい。1人でも多くの人に食べてもらって、違いをわかってもらえれば嬉しい。そのためには、まだまだやることがある」と、ラグビーに劣らない熱さで話す。

 取材の間、「(シックスネーションズが)予定通りにできれば」という言葉が何度も繰り返された。「こう思うことにも慣れてしまった」とも。今年9月、10月に予定されていた女子のワールドカップも来年に延期された。彼女はインタビューを「この状況で試合ができるだけでも恵まれている。感謝しなければ」と締めくくった。