穏やかに映った。爽やかにも映った。
この午後3トライを挙げてマン・オブ・ザ・マッチを獲得したパナソニックの福岡堅樹は、試合開始早々、左タッチライン際を駆け抜けるも敵陣ゴールラインの手前でタッチラインを踏む。
ところがオーロラビジョンに映る青の11番は、笑みを浮かべているような。
「ミスがあったからといって、それをひきずっても何のメリットもないので。常に切り替えて。次に同じシーンがあった時にどうするかは自分のなかで落とし込んで、あとはその瞬間、瞬間というのを楽しみながらプレーするのを心がけています」
日本代表初のワールドカップ8強入りを支えたフィニッシャーのこの落ち着きぶりは、ゲームの流れそのものにもリンクする。4連勝中のパナソニックが、4連敗中のNECに62-5で勝った。
序盤には福岡以外にも「不用意」と取られかねない反則やミスを重ねており、キックチャージをトライにつなげた坂手淳史主将も自軍の堅守へは「前に出ることでディフェンスラインを整えられた」とも、「自分たちとしてはよくない部分もあった」とも言及した。要は、すべてがうまくいったわけではなかった。
それでも、今季で引退するエースの顔つきそのままの様子で全勝を保てたのである。
かつてオーストラリア代表を率いたロビー・ディーンズ監督は落ち着いた口調で総括できた。
「難しい立ち上がりになるとはわかっていましたが、必要な精度を維持したままゲームができました」
挑戦者にあたるNECは、浅野良太ヘッドコーチ体制2季目。スピード強化の専門家、里大輔パフォーマンスアーキテクトを招く。この午後も、出足の鋭さから活路を見出せそうだった。
後の勝者が8-0とリードして迎えた前半23分頃。SOの亀山宏大が自軍キックオフを敵陣22メートルエリア左へ蹴り込み、WTBの宮島裕之が左大外から弧を描くように弾道へ飛びつく。パナソニック、落球。プレーが途切れる前までは、PRの瀧澤直、LOの山極大貴のダブルタックルも光った。
好守で追い上げの契機を作ったNECだったが、直後のスクラムから攻められない。最後尾にあったボールを相手SHの内田啓介に絡まれる。NECはこれを前後し、攻防の起点にあたるセットプレーで好機を逸し続ける。
15点差をつけられていた前半33分頃には、敵陣22メートルエリア左でラインアウトからモールを作りながら前に進めない。対するNO8のジャック・コーネルセン、LOで元オーストラリア代表のヒーナン ダニエルに塊を割られた。自軍ボールを失う。
パナソニックがモールで得点機を生み出していたのを踏まえ、瀧澤はこう悔やんだ。
「次のモールで…というところで押し込めなかった。逆にパナソニックはここというところでうまく組めて、マネジメントできた。技術的な反省点は、あると思います」
殊勲の福岡は、「相手を自分たちのパターンにさせないで、自分たちが自分たちの流れを作る」。試合中、想定よりも相手防御網の両隅が空きそうだと見るや、自陣から球をパスで振りながら足技を交えるよう意識した。右WTBの竹山晃暉も、よく左側へ回り込んで手足でスペースへ球を運んだ。
開始11分にFLの布巻峻介が奪った先制点のきっかけは、SOの松田力也による柔らかいキックだった。ちなみに福岡がハーフタイム直前に決めた自身1本目のトライは、松田のパスを受けてのものだった。臨機応変に動く同僚を、福岡は心強く思う。
「特に僕は10番の松田力也選手とコミュニケーションを取りながら、できるだけ相手を揺さぶれるようなアタックをしたいと思いました。常に状況、状況によって。松田選手はそれができるので」
後半4分、29分には、防御で圧力をかける流れでインターセプトから得点する。地上戦では日本では珍しい高卒3季目のFL、福井翔大が、「人より動こう」と機敏に起き上がり、タックル、ジャッカルを重ねる。NECの元主将でもある瀧澤はこう捉える。
「準備したことをやろうとはチャレンジしました。試合中も修正しようというポジティブなコミュニケーションは取れました。(上昇への)火種みたいなものは感じました。ただ、いくらチャレンジしていても、全ての面で小さなところで上回られたという印象です。そういうところ(の延長)でインターセプトが起きたり、大きく走られたり。やっていて点差ほどの力の差があるのかと言われればそうではなく、小さな積み重ねの差が、そう(大量点差に)なった。まだまだ自分たちはやれるなという感触はあります」
自軍の味方を慮る前向きな言葉からは、些細な失策なら帳消しにできた優勝候補の根本的な力量も読み取れる。
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