日本代表の具智元はこうだ。
「皆、自信を持ってやれています。もっともっと、うまくなっていこうと思っています」
身長183センチ、体重118キロの右PR。8対8で組むスクラムに矜持を抱く。所属先のホンダでは独自の型を磨く。
現代ラグビー界において、スクラム時の最前列の腕と肩の並べ方は「オーバーオーバー」が主流だ。組み合う際には中央のHOが両腕を2人のPRの肩の上を通し、横一列にまとまる。
ここでホンダは、「オーバーアンダー」という組み方を貫く。スクラムコーチを務めるのは具の父で、元韓国代表の東春氏だ。少なくとも具が出場する時間帯は、右PRの肩がHOのそれよりも前に出る。具の強さを引き出す。
今季の国内トップリーグではNTTコム、サントリー、トヨタ自動車に対して開幕3連敗も、第3節では具がスクラムで対面をのけぞらせた。反則を誘った。徐々に手応えをつかむ。
「久しぶりの試合だったNTTコム戦でつかめなかった強さ、距離などをサントリー戦でつかんできて、トヨタ自動車戦では結構、いいスクラムが組めた」
3月14日、千葉・ゼットエーオリプリスタジアムでの第4節に最初から出る。3戦負けなしのクボタに、得意のスクラムで対抗する。
相手の先発HOは南アフリカ代表のマルコム・マークスで、こちらも初戦からいいプッシュを重ねているような。ちなみに南アフリカ代表は2019年、ワールドカップ日本大会で日本代表などを下して優勝している。
当日。7点差を追う前半15分頃、具は敵陣ゴール前左で相手ボールスクラムを組む。姿勢を保ち、相手の左PRとHOの間へ首を突き刺す。
具と反対側が崩れる。組み直し。今度は、お互いが肩をぶつけ合うより前にクボタが腰を浮かせたような。クボタは、合図より早く組む「アーリーエンゲージ」の反則を取られる。
ホンダは自軍スクラムを選び、再び「オーバーアンダー」の形でクボタに挑む。具は変わらずに安定。すると、味方の左PRの藤井拓海が徐々にせり上がる。クボタは押される。塊を故意に崩す「コラプシング」の反則を取られた。
「相手はセットも遅くて、高いというのを試合前から見ていた。相手よりも速いセットでプレッシャーをかけるところがうまくいった。なかなかギャップ(相手との間隔)を取れないところもあったんですけど、皆、まとまって低いセットができたので、うまく組めたと思います」
こう語る具らホンダ陣営は、さらに、スクラムを選ぶ。再びコラプシングを誘うためだ。
レフリーが合図する。
クラウチ。バインド。セット。
塊全体は、まもなく、崩れ落ちる。ところが、ホンダが思うような笛は鳴らなかった。ボールを保持できたホンダはここから展開して攻めるも、最後は接点に横入りしたと見られて攻撃権を失う。
好機を活かせなかった瞬間を、具はこう振り返った。
「インゴールも近かったので、(スクラムでの)目的はペナルティを取ることでした。ただ、(塊の)バランスが崩れて…」
対するクボタのLOのルアン・ボタは、具と同様にスクラムをはじめとしたセットプレー(攻防の起点)に「自信を持っていた」。それだけに、今回、手こずったことへは「前に出ている時も反則を取られることもあった。イライラ、フラストレーションがたまった」と首をかしげる。
もちろん「逆に言えば、ホンダさんはそこでいい形だった。我々をつぶしてきた」と相手を称えるのも忘れない。特に、具の組み方には「確かに南アフリカには、ああいう形はありません」と驚いた。
もっとも試合は、クボタが38-7で制した。ホンダの反則で敵陣へ入れば、ラインアウトから簡潔に攻め込んだ。
殊勲のボタは、205センチの長身をかがめてのロータックル、リーチの長さを活かしたキックチャージ、走者をつかみ上げるチョークタックル、スペースへ駆け込む突進で光った。総じて肉弾戦の優位性をスコアに昇華させたとあり、最後はこうだ。
「やるべきことをやって、結果が勝手についてきている」
ホンダは80分を通し、活路を見出せそうなスクラム後のプレーでエラーがあった格好。後半15分にマティウス・バッソンと後退した具は、「ラインアウト、スクラムでプレッシャーをかけるところで、うまくいったことはあった。次の試合につなげられるよう、頑張っていきたい」と締めた。
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