ただ黙ってうなずくだけではない。
元スコットランド代表主将のグレイグ・レイドローの姿からは、「常に何かを考えているのだろうな」と感じさせられた。
「ミーティングでコーチや監督がサインプレーについて話したら、(その動きを)どうすべきかを1人で考えたり、横の人と意見交換をしていました」
福岡・小倉高の3年で、2019年度に17歳以下日本代表のCTBとなった久木野太一は、国内トップリーグのNTTコムの練習へ参加中だ。
進学先の帝京大に合流する3月13日までの5日間、レイドローを擁して話題を集めるクラブへ帯同。千葉県内のホテルとグラウンドを行き来し、実戦形式のセッションへも混ざる。
レイドローの他にはFBのシルヴィアン・マフーザにも、「盛り上げる時は(味方と)ハイタッチをして、まじめにする時は両手を叩いてそう促して。練習の雰囲気を作っていました」と感銘を受けた。
全体の印象は「楽しそうに練習をしていて、オンとオフの切り替えもうまい」とのことだ。見たもの、感じたもの全てを肥やしにしたい。
「楽しむ練習はゲラゲラ笑いながらやっていたのが、『ここから(本格的な)チーム練だ』となれば顔色を変える。身体が大きくキレがあって、パススピードも高校と全然、違う。自分はあまりマッサージなどをしないのですが、皆、けがをしないためにいつも柔軟(体操)をしている。いま、驚きでいっぱいです。スピード感、技術のひとつひとつ…。学べるものは全部、学んでいきたい。トップのラグビー選手がどうやってリカバリー、リフレッシュしているのかも見ていきたいです」
主体性で道を切り開いた。学生選手が識者から評価される「GLOCAL SCOUTS」というサービスへ、プレー動画を投稿。運営者である日本代表25キャップ(代表戦出場数)の山田章仁とのやり取りのなかで、山田の所属するNTTコムへの練習参加を希望した。
久木野と同じ鞘ヶ谷ラグビースクール、小倉高の出身である山田は、慶大時代から自身のプロモーション動画をフランスのプロクラブの関係者に託す行動派だ。久木野のアクションを好意的に捉え、サポートに回った。
山田から久木野の件を聞いた内山浩文ゼネラルマネージャーは、「最初は『え、高校生?』と抵抗はあった」ものの「夢を切り開くマインドに共感した。それに応えるチームでありたい」。今回を機に、高校生選手の練習参加を柔軟に受け入れられるかもしれない。
「大学へ入る前にトップリーグを経験した選手が大学のスタンダードを上げてくれたら、今回の価値がある。あるべきルールに従いながら、来るもの拒まずの姿勢を出していってもいいかもしれません。選手たちもいまは(社会情勢の影響で)部外の人たちとの接点はない。今回のことでインプット、アウトプットの機会が生まれれば、(結果的に)戦力強化にもつながるかなと」
2020年度、コロナ禍は少年少女の自己表現の場をいくつも奪った。
小倉高ラグビー部の主将だった久木野も、春、夏の大会が中止となったことで部員のモチベーション維持に苦労し、選出を目指していた高校日本代表の活動がなくなり悲しくなった。
「その(代表入り)のために身体作りをして、コンディションも上げていたので…。1年間、自分のプレーが見られていない。もう少し見て欲しかったというのは、あります」
口惜しさを覚えた。それでも、停滞とは距離を置いた。果たして、将来プレーしたい国内トップレベルの舞台へ足を踏み入れられたのだ。
チームが国内トップリーグの三菱重工相模原戦(神奈川・相模原ギオンスタジアム)を14日に控えるなか、緊張感を味わえるのも嬉しい。
「対戦相手のことを相当、分析していた。高校では試合に出ないメンバーがミーティング中に寝てしまうこともありましたが、ここでは(先発にも)リザーブにも入っていない選手も皆でひとつのことに向かっていました。やっぱり、トップリーグっていいなと思いました。シーズン中に呼んでもらっています。悪い影響を与えてしまわないよう、なるべく積極的に練習に参加してチームの雰囲気に早く慣れていきたいです」
ラグビーで日常生活を営む大人たちに接し、改めて思う。
「皆、楽しそうです。今回でよりトップリーガー(に相当する選手)になりたいと思いました。本当によかったです」
いつか、鋭いタックルを長所にこのステージへ舞い戻りたい。