ラグビーリパブリック

積み重ねで新時代つかむ。戦力整うクボタが東芝を圧倒!

2021.03.01

東芝戦でスクラムを組むクボタのFW。最前列中央は新加入のマルコム・マークス(撮影:松本かおり)


 ものごとを進めるのは難しい。
 
 来場客は隣同士の間隔をあけて座る。公式入場者数の「4150人」は、事前に定められた「5000人以下」を下回る。

 もっとも東京は秩父宮ラグビー場の前では、人々が白いマスクの奥から「あまり」「買うよ」などとささやいたり、日英の文字で「チケットを譲って」と書いたボードを掲げたりしていた。

 2021年2月27日。特異な状況下でのシーズン成立を目指す国内トップリーグが、第2節を迎えていた。

「個人的に感じたのは、トップリーグのレベルが上がったということ」

 会場でのオンライン取材に応じるのはリーチ マイケル。日本代表(代表戦出場数)68キャップを持ち、ワールドカップでは2大会連続で国の主将を務めた32歳だ。所属する東芝はクボタに7-39で敗れていた。

 今季限りで発展的解消を遂げるトップリーグが2003年に始まって以来、過去5度優勝の東芝はクボタにレギュラーシーズン通算14戦11勝。ただし、その欄外にあたる2019年8月のカップ戦を含めると公式戦2連敗中で、両軍がベストメンバーを揃えるこの午後、開幕2連敗を喫した。

 ゲーム主将でもあった入部10季目の名士は、今度の80分に近年の潮流を見る。

「トライを獲るのが難しくなった。外国人選手のインパクトが非常にでかいと感じます」

 2016年度に16チーム中9位、18年度には同11位と、クラブ史上最低順位を更新。2019年度からは元ニュージーランド代表主将のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチのもと、結束力と攻防のシステムを見直している。

 再浮上への道を模索するなかで迎えたクボタ戦では、FLのマット・トッド、CTBのセタ・タマニバルといったニュージーランド代表経験者が球際で気を吐いた。

 それでもFBの豊島翔平は、この午後の問題点を明かす。

「ボールを持っている人が(前に)行くという、守る側としては簡単なアタックをしていた。相手はなおさらプレッシャーがかけやすかったのではないかと思いました」

 天秤が傾いたのはハーフタイム明けだ。

 7-0とリードのクボタが、風上の優位性を活かして敵陣深い位置へ蹴り込む。日本代表55キャップでインサイドCTBの立川理道のタフなチェイスもあり、東芝の蹴り返したボールを首尾よく収める。

 司令塔のSO、オーストラリア代表71キャップのバーナード・フォーリーが、空いた右大外へ回す。実はきっかけの弾丸ライナーを放っていたWTBのゲラード・ファンデンヒーファーが、再びキック。新人FBの金秀隆にトライをさせ、やがて14-0と点差を広げた。

 主将就任5季目の立川は、さかのぼって前半24分、リーチを蹴散らして先制トライを記録している。試合を通じ、攻守で鋭さを発揮した。

「選手が判断しながらゲームを進められた」

 リーチとは別な意味で、時間の堆積に触れる。

「(チームの)皆が、同じ絵を見ている」

 クボタは、東芝が苦しみ始めていた2016年に南アフリカ出身のフラン・ルディケ ヘッドコーチを招いた。2019年にはスーパーラグビー初の日本人コーチでもある、田邉淳アシスタントコーチを入閣させた。

 丹念に耕された土地で光ったのが、立川やフォーリーといった熟練者だった。特に際立ったのは南アフリカ代表33キャップ、新加入のマルコム・マークスだった。

 スクラム最前列のHOとして後半25分に退くまで、デーヴィッド・ブルブリング、ルアン・ボタという同国出身で2メートル級の先発LOらと攻防の起点を支配した。

 向こうのスクラムを崩させてフォーリーのペナルティゴール成功を促したのは、14点リードで迎えた後半7分だった。

 キックオフ以降2度目となる映像判定で間延びした後半20分頃には、芝で股関節や太ももを伸ばし、最後には仲間の円陣に加わり心も整えたか。ゲームが再開するや、自慢のモールから抜け出し32-0とだめを押した。

 ハイライトはまだ0-0だった前半2分。自陣ゴール前左でジャッカルを決めたシーンだ。

「入ったな」

 クボタが東芝の攻め気を削いだ場面を回想するのは、同僚の井上大介だ。

「一回食いついたら(相手は)はがせなので、いいタイミングで(接点に)入りさえすればジャッカルできるんだと思います」

 いまの国際ラグビー界を時めく身長189センチ、体重117キロの26歳について聞かれ、立川、フォーリーと同じ31歳のSHはつい、「日本人離れ」していると評した。

 かえって、多国籍軍の絆の深さを匂わせる。

「彼は練習でもまじめで、日本人にも敬意を払って接してくれる。それこそ、世界的な選手だなと思います」

 声を出しづらい観客の多くがまとっていたのは、オレンジ色のベースボールシャツだった。クボタ側がひいきのチームを問わずに来場者へ配り、紺のセカンドジャージィ姿の戦士を支えた。

 連帯感を感じたのだろう。リザーブHOの杉本博昭副将は、ウォーミングアップに際してメインスタンドへ笑顔で手を振ったものだ。

 2022年1月からの新リーグで上位層12チームが決まるまでの間、今年の成績に加え地域との連携、ファンへの訴求力も審査対象となる。

 ものごとを進める折に問われるものには、各自の理念に基づく積み重ねと時代への適応力がある。

 そう再認識させたのが、この日の秩父宮だった。

Exit mobile version