ラグビーリパブリック

TLデビュー 無名から先発へ、クボタFB金秀隆。大学途中で針路変更、神戸製鋼SO李承信。

2021.02.25

宗像サニックスのディフェンスを突破しようとするクボタの金秀隆(撮影:松本かおり)


 2月20日、延期されていた2021年トップリーグが始まった。開幕戦では世界のラグビー界を牽引するボーデン・バレット(サントリーサンゴリアス/SO)、グレイグ・レイドロー(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス/SH)、TJ・ペレナラ(NTTドコモレッドハリケーンズ/SH)ら日本にやってきたスーパースターたちがトライで魅せた。

 その中、学生時代に無名だった選手、あるいは大学途中で道を変更し、トップリーグデビューを果たした選手もいた。

 クボタスピアーズのFB金秀隆(きむ・すりゅん)。関東大学リーグ戦2部の朝鮮大から2020年春にユーティリティBKとして入団した。
 2月20日、宗像サニックスブルース戦に15番を背負い先発した。試合開始25秒、いきなり金が片鱗を見せた。クボタキックオフのボールをサニックスが蹴り返す。それを確保した金は自陣10メートルの内側から迷わずランを選択し、サニックス陣10メートルまで進んだ。この後、ラックからクボタは南アフリカ代表HOマルコム・マークスのゲインなどでチャンスをつかみ、8分、オーストラリア代表SOバーナード・フォーリーの先制トライへとつなげた。

 クボタスピアーズは昨年、2020年度の大卒新入団選手10名を発表した。金の同期には2019年度大学王者となった早大の司令塔、SO岸岡智樹ら逸材がいる。岸岡も22番で途中出場、デビューを果たした。

 朝鮮大からトップリーグチーム入りは、2011年に福岡サニックスブルースに入団したLO黄徹秀(ふぁん・ちょるす。東京朝鮮高)、LO/FL慎賢宇(しん・ひょんう、東京朝鮮高)以来9年ぶり4人目だった。1人目は徐吉嶺(そ・ぎるりょん、2007年ヤマハ発動機ジュビロ→豊田自動織機シャトルズ、愛知朝鮮高)。

 クボタ10-7のリードで迎えた前半30分、サニックスがクボタ陣22メートル内側右ラインアウトを得る。オープンサイドへ回し、ディフェンスにとり死角になる位置から切り込んだFB屋宜ベンジャミンレイへ金がタックル、ノックオンを誘いピンチを切り抜けた。
 後半14分には自らのパントで初トライへ一歩迫るシーンも見せた。80分間、ピッチに立ち続けた。43-17の勝利。金が振り返る。

「トップリーグの舞台に立ち感じたのは、すごく楽しいと素直に感じました。チームとしても、プレシーズンの期間を通し一つになり、いい準備ができていると自信がありました。(デビュー戦は)緊張すると思ったので、日にちをかけてマインドの準備にさきました。そして、やってやると言うワクワク感を強く感じたので、いいマインドを作ることができたと思います」

 今後は、「自分の特技はランニングなので、試合に出ることができれば、魅せていきたい。まずはレギュラーになって、試合と経験を積み重ねていきたい。そしてスピアーズの結果に少しでも貢献できるような選手になります」とコメントを寄せた。

 朝鮮大の呉衡基(お・ひょんぎ)監督は教え子のデビュー戦を「頑張っていました。まだまだこれからという感じ」と、期待を込めて評した。

 金は27日に秩父宮ラグビー場でおこなわれる第2節・東芝ブレイブルーパス戦でもFBで先発する予定だ。

強豪の神戸製鋼に加入し、トップリーグ2021開幕戦でデビューした李承信(撮影:毛受亮介)

 昨年9月、神戸製鋼コベルコスティーラーズに電撃入団が発表されたのは李承信(り・すんしん)だ。1月に20歳になったばかりのSO。李は大阪朝鮮高から帝京大に進学し、高校日本代表、ジュニア・ジャパンにも選ばれるなど順調な歩みを見せていた。だが、2年生になった昨年、その名前が消えていた。ニュージーランド留学を希望もコロナ禍で果たせず。出身地の強豪、神戸製鋼の練習に参加し、針路を決めた。

 神戸製鋼のSO陣には、昨季まで元ニュージーランド代表のダン・カーターがいた。今季は同じく黒衣を着たアーロン・クルーデンが加わった。サンウルブズでスーパーブーツを発揮したヘイデン・パーカーもいる。李は世界レベルでのチーム内競争に自らを置いた。

 そして2月20日の対NECグリーンロケッツ戦。神戸製鋼は47-38で接戦を制した。
 10番はパーカーが先発、李は22番リザーブでベンチへ。ピッチへは42-26と試合が決まった後半34分に出場。試合の最後をきちんと締める役割を任された形だ。

 出場後すぐにNO8ナエアタ ルイが左隅にトライを奪い47-26へ。李はコンバージョンを任されたが、外れ、初得点ならず。リスタート前、SHに大阪朝鮮高の先輩である梁正秋(りゃん・じょんちゅ)が入り、トップリーグでは初めての大阪朝高ハーフ団が実現した。

 リスタート後、神戸製鋼ゴール前で梁からFLトム・フランクリンへボールが渡る。続いて李へ。李がナエアタへパスしたボールをNECがインターセプトし、攻撃へ転じた。最後はNEC新加入のイングランド代表SOアレックス・グッドの器用なボール運びでトライへ。グッドは試合終了前にも絶妙なキックでボールを神戸製鋼ゴール前へころがし、追う李らをしり目にチームの連続トライにつなげた。47-38、コンバージョン成功なら47-40でNECにも勝点1が入ったが、失敗し終えた。

 梁は後輩との出場を「同じ母校の後輩とハーフ団を組めたことをとても嬉しく思います。試合で組んだ感想は、出場時間が少なかったのであまりないですが、スンシンの印象としては20歳とは思えないくらい堂々としていたと思います」と振り返った。

 李も率直なデビュー戦の感想を寄せてくれた。「学生ラグビーとは違う雰囲気で高いスキルと激しいフィジカルのぶつかり合いが印象的でした。個人としてここが通用するというのは感じとれなかったですが、神戸のラグビーをやりきる事でゲームに勝てるという自信がつきました。正秋さんと組むときは常にコミュニケーションをとってくれて、細いフィードバックもくれるのでやるべきことが明確になるので助けられています」

 課題も見えている。「ディフェンス時のタックルスキル、プレースキック、ドロップキック」という。

 兵庫県に生まれた李。3兄弟が全員、大阪朝高ラグビー部へ。長兄、承記(すんぎ)氏は3年時主将として2014年度第94回全国高校大会に出場。この時の3年生には、流経大を経て2019年春に神戸製鋼に入団したFB韓尊文(はん・じょんむん)、法大に進んでホンダヒートに加入したSO/CTB呉洸太(お・ぐぁんて)、2年には前述のクボタ・金秀隆らがいた。承記氏は法大へ進み2019年春、卒業後に地元・兵庫へ戻った。「見ているこっちがもっと緊張しました。短い時間の出場でしたが、入団早々トップリーグを肌で感じる大変良い経験ができたのかなと思います」と温かく見守る。
 次兄のHO承爀(すんひょっ)は今春、帝京大からホンダヒートへ。リーグでの兄弟対戦も実力でつかみたい。

 梁は先輩として「練習の時からも感じることですが、すごい選手たちに囲まれながらも、物怖じしない感じは本当にすごいと思います。ポテンシャルが非常に高く、自分でキャリーするのも上手ですし、高いスキルも持っています。そういった強みを活かしつつも、今後はゲームコントロールの面で、経験のある選手たちから学び、チームを勝利に導ける選手になってほしいです」と結んだ。

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