パナソニックは登録メンバーの23名中、日本代表経験者は相手のリコーより6名多い10名としていた。外国人枠、特別枠、アジア枠を埋めるのは、欧州6強の代表勢、近い将来の日本代表入りが期待される有望株が中心だ。
何より北関東は群馬の地で、時間をかけてチームを錬成してきた。
昨季は新型コロナウイルス感染拡大のため2月下旬限りでトップリーグは中断され、以後は多くの選手が抜ける日本代表ツアーが実施されなかったのだ。
「パナソニックでは、シーズンに入る約1か月前から(全てのメンバーが揃って)準備して臨む…というのがオーソドックスな形でした。ただ今年はプレシーズンが長かったおかげで僕も一人ひとりのキャラクターを再確認できましたし、FW、BKそれぞれに求めることについてコミュニケーションを取りながらできた」
こう語るのは松田力也。2月20日、国内トップリーグ初戦に司令塔のSOで先発し、55-14と圧倒した。9本あったゴールキックを全て決め、マン・オブ・ザ・マッチにも輝いている。
日本代表24キャップ保持の26歳は、先制されながらも逆転した過程をかように振り返る。
「きょうは前半、ミスが多くなっていたところでも、皆がどうしなきゃいけないかをわかっていて、僕もどういうオプションをすれば普通に戻れるかを考えてやれた。その結果、建て直せた。(長く)準備ができたことは、プラスでしかない」
綺羅星の集団は前半1分、大外へ振ろうと思ったパスを狂わせ、相手に拾われ独走を許す。0-7。その後も攻め込んでのエラーで好機をつぶし、先方の強烈なタックルにも苦しんだ。
しかし、心は乱さなかった。松田は続ける。
「攻め急いだというか、全員のつながりじゃなく、個人の判断でパスを放ってしまってミスが起きた。もう一度コミュニケーションを取って、皆で同じ絵を見てアタックをしようとした。開幕戦ではミスは絶対にある。それを引きずるんじゃなく、切り替えて、次に活かせるようにした。その結果、前半の最後あたりから嚙み合ってきたと思います」
堅守でペースを取り戻す。
5分頃。自陣22メートル線付近で列をなし、リコーの攻めを跳ね返す。
今度はリコーのパスが乱れ、FLの布巻峻介がセービング。青い波は右大外へ展開。FLのベン・ガンターが快足を飛ばし、ハーフ線付近右でリコーの反則を誘った。
次の攻撃で首尾よく敵陣22メートルエリアに入り、9分、松田のペナルティゴールで3-7と追い上げる。
好ランで光ったガンターは続く16分頃、自陣10メートル線付近での向こうのジャッカルでノット・リリース・ザ・ボールを引き出す。
「パナソニックさんはブレイクダウン、ディフェンスでプレッシャーをかけてきまして、それに対して(自軍の接点への)寄りが多く、ジャッカルをさせて、そこで反則を犯してしまい…勢いに乗れなかったことは反省点です」
リコーのCTB、濱野大輔共同主将が悔やむなか、パナソニックのHOへ入った坂手淳史主将は「約1年ぶりの公式戦で練習してきたことが出せた」と述べる。
「ただ、ビデオを見直せば修正点が出ると思いますし、よりコミュニケーションを取れたらパナソニックのディフェンスはもっと脅威になる」
判断と技巧が光ったのは、10-7と3点リードで迎えた前半33分だ。
リコーの度重なる反則もあって敵陣ゴール前右でラインアウトを得ると、FWがラックを連取。力勝負を重ねた末に、接点周辺にいたFLの布巻、左PRの稲垣啓太が防御をひきつけながら細かくパスを交換する。
攻めの起点たるSHの内田啓介はそのボールを右へさばき、受け取った松田が目の前の防御を抜き去る。トライラインまで近づくや、サポートへ入った内田がそのままインゴールを割る。
「FWにパワー勝負を挑んでもらって、相手が(接点周辺に)寄ってきたので、外に一気に運ぼうと思ってオプションを選択したなかでのプレーです」
松田はまずこう振り返り、直接的にフィニッシュを促した自分のランについては「相手がもっと(自分との間合いを)詰めてくると思ったんですけど、(外側へ)流してきた。僕の前にスペースがちょっとできたと思い、そこで、行った」と皮膚感覚を明かした。
「それで、テンポよく内田選手のトライにつながった」
ゴール成功。17-7。
「相手を見て、いいアタックができたと思います」
リコーは序盤こそ激しいプレーで牙をむいていたものの、徐々に彼我の運動量の差をにじませる。それは、得点を奪ったシーンでも同様だった。
20-7から20-14と差を詰めた後半6分のスコアは、SOのアイザック・ルーカスがパナソニックのタックラーをかわし、抜け出したのがきっかけとなっていた。
次の次にあたるフェーズでCTBのジョー・トマネが力強く突進し、大外への展開でNO8のタラウ・ファカタヴァが左タッチライン際を快走。最後は快速のキーガン・ファリアが2トライ目を奪った。
ただ、ルーカスに球が渡る前の場面では、クイックスローでのプレーを再開させながら周りの選手のサポートがやや遅れていた。リコーが攻撃陣形を作る前にパナソニックが防御網を敷いており、特定の個人技が連ならなければ攻守逆転のリスクさえあった。
「相手のディフェンスは(間合いを)詰めてきてバックスペース(背後)に空きがあり、戻りが遅いと認識していました。なので、どこをアタックすべきかはわかっていた」
ファリアはこう言いつつ、その理想を実現させるのが難しかったと悔やむ。
「それ(攻撃のプラン)を実行できたところ、できなかったところがあったと思います」
後半15分には、フロントローを入れ替えたパナソニックが敵陣ゴール前での相手ボールスクラムを立て続けにターンオーバー。まもなく加点した。27-14。
以後は途中出場したHOの堀江翔太のオフロードパス、WTBの福岡堅樹のインターセプトなどをスコアに変え、勝負を決定づけた。
「前に出てディフェンスできていて、相手がアタックしながら下がっていた」とは勝った坂手。「修正点は、アウトサイド(外側)でのディフェンス。内からFWが走れる部分もあったと思う。そこはもっと、やっていきたい」と、勝って兜の緒を締める。