インスタグラムに熊をアップした。母の李銀淑さんがラグビー日本代表のジャージィを着せた、薄茶色のぬいぐるみだ。
そのジャパンで13キャップ(代表戦出場数)を獲得の具智元は、相好を崩す。
「お母さん、家で暇そうにしていて…。すごくかわいくできていたので、載せてみました」
父で元韓国代表の東春氏が今季、兄の智允と一緒にプレーするホンダのスクラムコーチになった。両親が日本に揃ったのは「半年前」とのことで、社員寮で暮らす長男以外はひとつ屋根の下で暮らす。
血縁者の指導へは「最初はやりづらいところもあった」という次男は、やがて、その教えが仲間たちへ浸み込んできたと感じる。
東春氏は、最前列中央のHOが右腕を右PRの肩より下へ通す「オーバーアンダー」の組み方を唱える。かつては強靭な右PRを有するクラブで採用されてきたものの、いまは世界的に珍しい形となりつつある。
身長183センチ、体重118キロの右PRである26歳の具は、前向きに語る。
「いまは慣れてきて、他の7人は自分をサポートしてくれるのがうまくなっている。やりやすい、という感じです。自分はまず、スクラムでしっかり見せる。フィールドプレーでも真面目に動く。さぼらずやっていきたいです」
2月20日、国内トップリーグが始まる。ホンダは東京・江東区夢の島競技場へ出向く。
当初は1月17日にホームの三重・鈴鹿サッカー・ラグビー場で初陣へ挑むはずだったが、リーグ全体がスタートを切る2日前の14日、開幕延期を受け入れていた。複数のクラブでクラスターが生じた。
ホンダの主将で29歳の小林亮太主将は、率直に述べる。
「残念な気持ちが第一にありました。でもチームとしては、1か月ほど準備期間が増えたと捉えるようにしました。もう1回、チームプレーの完成度を高めようと、心を合わせてやってきました。FWはセットプレー(スクラム、ラインアウト、キックオフ)を。システムの導入は終わっていたので、細かいところを突き詰めていました。BKも同様にコミュニケーション、パスのタイミングなどを調整できたと思っています」
オンライン取材でこう述べたのは18日。「セットプレー」の領域では、LOのフランコ・モスタートの波及効果が大きいと話した。
南アフリカ代表39キャップを誇る30歳の新加入選手へは、ダニー・リーヘッドコーチ(HC)も太鼓判を押す。
「全員からリスペクトを勝ち取っている。特にラインアウトでは彼の意見(が反映されている)。フィールドでもすごく動きがいい。(周りは)彼に頼れるところは頼り、盗めるところは盗み…と、うまくチームで関わり合ってくれている」
第1節の相手はNTTコムだ。鈴鹿であった前年度の直接対決は、13―14とホンダが1点差で落としている。小林主将は言葉を選ぶ。
「特別な気持ちもありますがそれに囚われ過ぎず、やるべきことをやる。そこにフォーカスしたい」
注目されるのは、向こうのキーマンとのマッチアップだ。
NTTコムのSHは、元スコットランド代表主将のグレイグ・レイドロー。具にとっては、2019年のワールドカップ日本大会以来の再戦となる。
「ポジションは遠いですが、世界的な選手でプレーを作ってくると思います。自分から『こう(対処)しましょう』というものはないですが、チームとしてプレッシャーをかけようと言い合ってきたので、(当日も)そうできると思います」
FLの小林が多くぶつかりそうなのはリアム・ギル。オーストラリア代表で主将のマイケル・フーパー、デビッド・ポーコックらと定位置を争い15キャップを掴んだボールハンターで、今度も小林と同じポジションへ入る。
船頭役は改めて、「自分たちがどうするか。それが大切」と強調する。
「相手の素晴らしいバックロー(FLなどのFW第3列)に仕事をさせない。密集で集散を速くして、キャリー(走者)が(接点へ球を)持ち込んだらそこにコミットする。ボールを動かすラグビーをするにも、絡まれたらボールを動かせられないので。ただ、自分たちの仕事をする。相手がどうこうというより、自分たちやるべきことをやると、常々、言っている」
トップリーグは今季限りで発展的解消を遂げる。その成績は、2022年からの新リーグでのディビジョン分けに影響しそうだ。
これまで下部への降格も経験し、2018年度の9位を最高とするホンダにあって、就任5年目のリーHCは、「今週の試合、今度の大会に集中したい。正しい姿勢、正しい方向性で臨めば結果はついてくる」。海外出身者の怪我人に悩まされながらも、まず3月いっぱいまでの今季のファーストステージで「ボトム2(8チーム中7位以下)」にならぬよう一戦必勝を誓う。