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逝去の湯原祐希コーチに「何とか、近づこう」。東芝愛する森太志、決意の冬。

2021.02.19

2月9日、取材に応じてくれた東芝HO森太志。20日のトップリーグ開幕戦に先発出場する

 踏切の前で電車を眺めてきた少年が鉄道マンになるのと似ている。

 森太志は、子どもの頃から応援してきた東芝ラグビー部に在籍。国内トップリーグでプレーする。

 同部OBの章徳を父に持ち、自らも小学5年で東芝と近しい府中ジュニアラグビークラブへ通った。後年、憧れていた選手には2000年代の中核の名を次々と並べる。

 大型LOの釜澤晋に運動量の豊富なNO8のニコラス・ホルテン、強靭なWTBのナタニエラ・オト、豪快なFBの立川剛士…。きっと、すべては挙げ切れなかったろう。

 入部したのはマイケル・リーチ(現リーチ マイケル)と同じ2011年。オト、立川、さらには42歳までプレーした松田努ら、青春時代にテレビや試合会場で観てきた代表経験者と一緒に練習ができた。

 実感を込める。

「もう、無茶苦茶、嬉しかったですよ」

 若手時代、何と、現普及担当で日本代表として史上最多の98キャップ(代表戦出場)を持つ大野均の頭を「ポン」となで、労ったことがある。

 ざわつく周りへは「俺は均さんを尊敬しているからいいんです」との旨で返し、大野本人に「一理あるな。若手が練習中にしたプレーも、さりげない会話のなかでほめている」と納得させてしまった。

「それは10年位前の話です。いまはとてもじゃないけど、できないですよ」

 苦笑したのは2月9日。国内トップリーグの開幕を11日後に控えていた。パソコンの画面を通し、愛を、語るのだった。

「人と比べるものではないですが、自分は特にチームを好きな気持ちの強い選手だと思っています。何というのか、このチームで活動をしている時間の全部が、本当に楽しい。あ、いまの時間、良いな。そう思うことがずっと、なので」

 身長174センチ、体重103キロで接点に強い。帝京大では副将として、大学選手権2連覇を果たしている。

 しかし入社以来、長らく定位置を掴めなかった。同じHOのポジションに、湯原祐希がいたからだ。

 ワールドカップに出る日本代表へ2011、15年と2大会連続で帯同の湯原は、最前列中央で組むスクラムに造詣が深い。肩をぶつける間合い、姿勢のずれ、仲間同士の密着ぶりと、複雑な構成要素を競技未経験者へもわかるように伝えられたものだ。

 選手兼コーチとなる直前の2018年度も、リーグ戦7試合で5度先発とレギュラー格だった。森は2016年に日本代表になったものの、湯原を抜いた感覚は掴めなかった。

「僕なりに思いつくことは全部やって挑んだつもりなんですけど、正直な話、勝てたとは思っていなくて。僕が試合に出始めたのも、湯原さんが道を開けてくれたからのような印象もあって…」

 脳裏によぎることが、ある。

 東芝には、試合を終えた夜に出場選手が地元の府中市内で集まる文化があった。ところが3年目の2013年度からリザーブに定着の森には、自身の出場時間の少なさや働きぶりへの不満感から「不貞腐れて、皆と帰らない」ことがたびたびあった。

 そこへ「太志、一緒に帰ろう!」と声をかけたのが、その日に長くプレーした湯原だった。

 湯原の自宅は、森が住んでいた寮に近かった。森は5学年上の先輩にひたすら「若造の愚痴」を聞いてもらい、湯原は後輩を送るやすぐに仲間と合流した。

 いい選手はいい人であると実証するのが、湯原の真骨頂ではなかったか。湯原のスクラムに話題が及べば、森はその人柄に思いをはせた。

「そもそも身体と力が強いのですけど、何より湯原さんが『行くぞ』って言うと、(周りが)その、雰囲気になるんです。ラグビー選手としてだけじゃなく、ひとりの人間としても影響力があった。ラグビーに対しても、チームメイト(との関係構築)に対してもまっすぐ取り組んでいたので、言葉に説得力があった。かっこいい先輩でした」

 2021年1月からのトップリーグは、湯原が専任コーチとして臨む最初のシーズンだった。

 湯原が拠点のジムで倒れ、36歳で逝去したのは2020年9月のことだ。

「ショックは、凄く、大きかったですね。はい」

 愛知・パロマ瑞穂ラグビー場でのトヨタ自動車との初戦は20日の14時、キックオフ。32歳の森はスターターに入る。

「僕は今年で10年目。湯原さんほど貢献できたとは思っていないですけど、ここまでチームにいられているのは湯原さんに挑み続けた期間があったからかなと。湯原さんはHOとして完璧な選手で、僕はそれに何とか近づこうとしている。この気持ちは、ますます強くなった感じですね。いまはチームのために、『こういう時、湯原さんならどう行動するか』と考えながら練習に取り組んでいます」

 最大級のファンでありチームマンは、いまなお師の背中を追う。

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