ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】昼食バイキングで初制覇を。 京都成章高校

2021.02.16

京都成章自慢のバイキングの昼食にご満悦の森山飛翔(つばさ)。将来有望な新2年生のPRだ



 京都成章は老ノ坂峠のそばにある。
 読みは「おいのさか」。西にある亀岡と洛中をつなぐ。明智光秀はこの高みを駆け下りた。「敵は本能寺にあり」
 主人の織田信長に反旗を翻す。

 この私立校は山の斜面にある。全日制普通科。男女の生徒数は1600と大規模だ。校内は階段と坂。そのため体力が要求される。エネルギー消耗はお昼でチャージ。バイキング形式の食事は学校負担があり、200円と安い。

「食堂のごはんとちゃいますか」
 湯浅泰正は笑って答えた。
「どうして選手たちの体は大きいのか?」
 ラグビー部の部長兼監督への問いは、昨年11月、花園出場を決めた時に出た。

 ある日のメニューはハンバーグ(おろしポン酢ソース)、きんぴらごぼう、ペペロンチーノなど7品。おかずを盛るのは大皿に1回だが、ごはんと味噌汁はお代わりできる。

「美味しいです」
 森山飛翔(つばさ)のお昼休みは楽しい。180センチ、104キロのPRはこの春、新2年生になる。新人から30人の全国大会登録メンバー入り。一昨年から始まるこの昼食システムは成長の一助になっている。

 森山にとっての2年目は、チームとして初の全国優勝を獲るための1年でもある。
 湯浅は力を込める。
「もちろん狙いたいです」
 年末年始の100回大会。京都成章は決勝で桐蔭学園に敗れた。スコアは15−32。前半は10—10の同点。後半、力尽きる。初の決勝進出の勢いは続かなかった。

 前年の99回大会は8強敗退。優勝の最右翼であるAシード3校に入る。FWは超高校級の体格だった。8人平均は182センチ、100キロ。同じ年、大学を制した早稲田は1センチ低く、2キロ重いだけだった。それでも常翔学園に24—27と逆転負けする。

 2年連続の悔しさの中、浮かび上がってきたことがある。
「体を大きくする。そして走れるようにする。それは、もちろんのことです」
 バイキングはその効能を高める手段だ。湯浅は一拍置き、続けた。
「その上で、体の動かし方、使い方をものにしないといけないと思っています」

 湯浅は質問者を横に立たせ、手で肩を突くハンドオフをする。
「ウチはこれだけなんですね」
 手のひらと二の腕だけの力だ。
「強いチームはぐーっと来ます」
 湯浅は外側の右足から力の伝わりを指で描き、手のひらを終点にする。体全体の力を1点に集める説明をした。

 体の大きさでタックラーを飛ばせた、と思っても相手は沈み込み手を放さない。結果、絡まれるようにして止められる。
 それを打破するためには、さらなる衝撃が必要になる。体の強さはもちろん、股関節を中心にした柔軟性や体重移動がいる。

 その部分を新しい年度に体得したい。逆に言えば、京都成章は赤き大優勝旗を得る最後のレベルに来ているといえる。



 校内のグラウンドは人工芝ではあるが、70×63メートルと小さい。その地所を野球、ソフトボール、男女のラグビーと4つのクラブで譲り合いながら使っている。

 ひとつの隅には黒土が敷きつめられる。野球部は1998年、夏の甲子園で準優勝した。エース・松坂大輔(現・埼玉西武)を擁する横浜に0—3。この高校では、おおかた四半世紀前は楕円球より白球だった。

 その野球と同じ位置まで青黄ジャージーを引き上げたのは湯浅の力である。隣の亀岡出身の56歳は戦術研究や勧誘を続けた。

 創部は学校創立と同じ1986年(昭和61)。翌年、琉球大を卒業した湯浅が新卒の保健・体育教員として赴任する。4月で指導35年目。花園出場は7年連続13回とする。古都における最近の実績は、優勝4回の京都工学院を上回る。最高位は100回大会の準優勝。4強は3回ある。

 現在の部員数は86。新3年=45、新2年=41人である。ラグビーのみならず、生徒は大阪、兵庫などからも集まるため、通学時間を勘案して、始業は9時30分である。
 ラグビー部の主なOBは坂手淳史。HOとして日本代表キャップ21を持ち、パナソニックの主将もつとめる。

 準優勝メンバーは3年生が11人いた。193センチと大型LOの本橋拓馬は帝京大に、共同主将をつとめた宮尾昌典と辻野隼大のHB団は早大と京産大にそれぞれ進む。新チームでは昨年から定位置を確保していたHO長島幸汰やFB大島泰真らが軸になってくる。

 チームは新人戦にあたる近畿大会府予選決勝で洛北を64—0と完封する。
 72回目の近畿大会は2月13日の初戦で御所実を32−12、翌日は東海大大阪仰星に25—35で敗れた。結果、8強敗退の4チームと選抜大会への出場1枠を争うことになる。勝てば9回目の出場になる。

「アタックはみんな好き。それなりにできます。タックラーが出てくるかどうかですわ」
 そう話していた湯浅の危惧は現実になる。体の使い方を会得し、それを防御に落とし込む。35失点を抑えなければならない。

 450年ほど前、光秀は信長を倒し、天下をものにした。長短は関係なし。一度、獲れば、その名は後世に残ってゆく。