昨年の11月上旬ごろだっただろうか。編集部あてに一通のメールが届いた。
「私たちの活動を拡散してほしい」
差出人は上智大ラグビー部の3年生マネージャー、三輪紗由季さん。文面は「お願い」というよりも「嘆き」に近かった。
「対抗戦Bがいかに注目されていないか、重要視されていないかを痛感しました」
上智大は関東大学対抗戦Bに所属している。その上位リーグである対抗戦Aは今季、コロナ禍の影響を受けながらも、10月4日に開幕。例年通り、8チームで総当たり戦が実施された。
対して対抗戦Bは10月下旬まで開催の可否すら決まらず。「リーグ2ブロック+順位決定方式」のフォーマットに変更して何とか11月8日、開幕戦を迎えた。
対抗戦Bの開幕が遅れたのは、所属8大学の活動再開が他大学に比べ、やや遅れを取ったから。どうして他大学は練習や試合ができて、自分たちはできないのか。そもそもの事象に当事者たちが歯がゆく思うのは当然だった。
「練習も試合もちゃんとできていなかったけど、学生の活動をちゃんと見てもらいたい。対抗戦B全体が少しでも盛り上がればと」
三輪さんら上智大の広報委員は、8月上旬に対抗戦B所属の7大学とコラボすることを考えた。Zoomでの対談動画をYouTubeで生配信。自分たちにもラグビーへの熱い気持ちがあることを知って欲しかった。
それは他の7大学のラグビー部員も同じ気持ちだった。成蹊大の3年で副務をしている米山徹朋さんは「この対抗戦B、8大学のつながりをさらに強くしよう」と提案した。
8大学から有志を募ると、33人もの学生がオンライン上に集まった。
ここに、「対抗戦B合同企画」が発足した。
彼らの活動は多岐に渡る。試合映像の配信やオリジナルグッズ販売、SNSの運用、HP開設…。コロナ禍でもできると判断したものは片っ端から取り組んだ。
特に試合映像の配信は、OBやファンを喜ばせた。対抗戦BはJ SPORTS等での映像配信がない。今季は全試合が無観客で、外部の人が試合を見る手段がなかった。
試合中継を担当した学生全員がもちろん中継の素人だったが、上智大のOBである浜野俊平さんが手を差し伸べてくれた。日本代表(男子15人制)の分析スタッフを務める浜野さん。中継のために必要な配線など、図におこして教えてくれた。
シーズン終盤にはただ試合を中継するだけでなく、試合の得点経過を表示したり、試合後にインタビューをするなど、素人とは思えない演出を施した。
「家で見てるけどスタンドで見ている気分だった」
「あると助かる。なんで今までやってくれなかったの(笑)」
そんな温かいメッセージは海外在住のOBからも届くようになった。
やって良かったと思える瞬間だ。
「やらなくてもいいことをこんな大変だけどやっているのは、対抗戦Bをもっと知ってほしいという気持ちがあるから。いろんな方にチームの頑張りを知ってもらいたい」(三輪さん)
コロナ禍で活動の多くが制限される中で、むしろ高まった熱い思いが多くの知恵を生んだ。合同企画の代表者の1人、木下朋香さん(東大4年)もこれにうなずく。
「中継もコロナだから生まれた発想だった」
最近さらに新たな取り組みも始めた。
対抗戦Bは試合ごとのMOMや1年間のMVPが関東協会から選出されない。それならばと、学生たち自らMVPと新人王を決めて、表彰することにした。
公平性をなるべく保つために、始めに大学ごとでMVPと新人王を1人ずつ、詳細な理由を添えて推薦してもらった。
それを「合同企画」の企画部門6名で、定量的指標やインパクトなど様々な観点で話し合う。候補者を絞りながら、最後は投票で決めた。
新人王はスムーズに決まった。なによりインパクトがあった。
選ばれたのは上智大の阿部勝矢。大学からラグビーを始めてわずか3か月で、全試合スタメンを飾った。それもポジションはプロップ。103㌔の巨体を揺らして活躍した。
MVPはAブロックとBブロックでそれぞれ1人ずつ選出。
Aブロックは成蹊大4年のFB神田圭大が選ばれた。5トライを挙げてトライ王に輝いただけでなく、そのトライの多くが戦況を変えるカウンターアタックから挙げたものだった。
Bブロックは明治学院大2年のNO8小倉海聖。FWの選手でありながらキッカーを務めて、コンバージョンは13本すべて成功。トライも記録し、チームに大きく貢献した。
MVPは票が割れた。特にAブロックには武蔵大の4年生、高橋海斗がいた。本来であればHBの選手。ケガでラストイヤーはグラウンドに立てなかった。だが学生コーチとして尽力したことを評価され、武蔵大からMVP候補に推薦されていた。数値では測れないMVPを選ぶのはかくも難しい。
選ばれた3人には嬉しいプレゼントが送られた。トップリーガーからのサイン入りTシャツだ。協力してくれたのは、サントリーのWTB/FB江見翔太とSH齋藤直人。江見は対抗戦B所属の学習院大出身だから普段から気にかけてくれていた。サントリーの府中グラウンドを訪れると、2人の協力のもと、たくさんの選手が快くサインを書いてくれた。
企画部門の一橋大3年、井上玲さんはこの企画に手応えを感じている。
「(この取り組みが選手たちにとって)来季へのモチベーションにつながっていると感じます」
数か月前までは顔も名前も知らなかったいわば対戦校の学生たちが、同士となって協力し合い、リーグの価値を上げている。これが本来のあるべき姿と木下さんは話す。
「対戦校なのでグラウンド内では敵かもしれないけど、ラグビーの特徴を踏まえれば、試合中の40分×2以外のところではもっと交流できる機会があっていいし、対面で会った時に快く挨拶できる関係になれば、リーグを内側から活性化できる」
逆境の中で生まれた知恵とつながりが、そこにあった。