開幕まで約2週間。グラウンドに良い空気が漂っていた。
大阪・南港近く、NTTドコモレッドハリケーンズのグラウンド。同チームはトップリーグの初戦でキヤノンと戦う。2月21日(日)、舞台は東京・町田のGIONスタジアムだ。
今季からヨハン・アッカーマン ヘッドコーチが指揮を執る。練習時、選手たちは動き続けるようになった。
SH秦一平(はた・いっぺい)が言う。
「いいトレーニングができています。練習時間は長くないのですが、その間に休む時間はなく、移動中も走り続ける。(そんな習慣が)浸透しています。練習の強度が高くなりました。みんなの体力、意識も高まっています」
スーパーラグビーのライオンズを強豪に育て上げ、英・プレミアシップのグロスターにもアタックマインドを植え付けた指導者の哲学は、レッドハリケーンズの選手たちに刺激を与えている。
心身両面に影響を与えているのがいい。
ワールドクラスの選手たちの加入も、チーム力を引き上げている要素だ。2019年のワールドカップを制した南アフリカ代表、WTBマカゾレ・マピンピは日頃から躍動する。
秦と同じSHには、オールブラックスとして69キャップを持つTJ・ペレナラが加わった。
ワールドクラスがチームメートになった。それも、同じポジションに突如スターが加わると聞いた時、秦は「やべえ、と思いました」と笑う。
「マピンピも含め、そういう人たちが来るよう(な時代)になったんだな、と」
ポジションを争う立場としては強大なライバルの出現ではあるけれど、得るものは大きいと考える。
「(あれだけの人が)チームメートで、それも同じポジションにいるというのはなかなかない。勉強になる。いまは選手ですが、引退した後にも、この経験は生きると思っています」
ペレナラの何がすごいって、その振る舞いが堂々としていることだ。
「最初から、チームにずっといるみたいな感じです。リーダーシップがすごくある。発言も、振る舞いも、自分の準備も、チームへのアプローチも、自然で、プロ意識がとても感じられます」
プレー面も頼もしい。
「いちばんはランスキル。身体能力が高いですね。サポートコース、自分からの仕掛け、体の強さを活かしたディフェンス。ゴール前では自分で持ち込む。勉強になる」
世界レベルに直に触れ、その凄みをあらためて感じる日々。しかし秦は、9番の座を争う相手という事実は忘れない。
「ライバルというのはおこがましいのですが、同じポジションです。持ち味は違うし、それぞれの良さを出してチームにフィットし、貢献したいと思います。自分だけでなく、日本人のSH全員、そう考えているはずです。一人ひとりにそれぞれの強みがある。チームの方針の中で、それを出していくのが大事」
自身は、「テンポの良さ」を武器に戦いたい。「ベテラン(9年目)なので、チーム全体を落ち着かせ、コントロールするところも見せたいですね。テンポやスピードの強弱をつけられるところも」と続けた。
153センチと184センチ。52キロと90キロ。ペレナラとのサイズの違いに、「こんな人もおるんや、と思っているはず」と笑う31歳は、学び、挑む。それを繰り返すことで、まだまだ進化できるとも思っている。
「サイズが違うので真似は難しいのですが、TJの動きとか、仕掛けた攻撃の意図を聞いています」
6試合戦ったところでリーグが打ち切りとなり、消化不良に終わった昨シーズン。チームは1勝5敗に終わったから、「去年のような思いはしない」と覚悟を決める。
「去年はトップリーグに(再)昇格したシーズンでしたが、プレー時間も少なかったし(5試合の出場中先発は3試合、306分ピッチに立った)、(完敗が続き)悔しい思いもしました。このままじゃ終われない。チームも新しく生まれ変わるとき。その一員として頑張りたい。自分ができることもやり切ります」
チームのここを見てほしい。
「姿勢です。練習でやっているのと同じように、試合中、全選手が立ち続け、人が減らないラグビーをやります。しつこく、激しく戦い続ける。それを試合結果に結びつけるつもりですが、これまでやってきたことが伝わるプレーを見せたい。こんなにやれるんだ、やってるな、と」
旋風を起こす。