ラグビーリパブリック

ワールドカップ戦士の具智元に共感。20歳の李承信、神戸製鋼で憧れの存在を目指す。

2021.02.08

神戸製鋼コベルコスティーラーズの新人、李承信。ジュニア・ジャパンでは主将を務めた。


 李承信は19歳の夏、漠たる「不安」に襲われた。

 帝京大のラグビー部を実質的には1季限りで辞め、ニュージーランド留学の筋道を立てていた。

 しかし、社会情勢の変化で計画を書き換える。一時は、近所のジムや公園で汗を流すほかなかった。

「いままでのラグビー人生のなかで、ひとりで練習して、ひとりでボールを触るという時期があまりなかったので、孤独というか…。どのレベルで、どの量をやったらいいか、不安ではありました」

 退学して間もない9月30日、地元の神戸製鋼へ入ったと発表した。大卒選手の多い日本ラグビー界にあっては異例の挑戦だ。話題を集めた。

 話をしたのは2月上旬。国内トップリーグの開幕を約2週間後に控えていた。兵庫県内の実家で決意を込める。

「入った当初は周りがハイレベルな選手ばかりで、それまでに自分がラグビーから離れていた期間もすごくあった。神戸のラグビーについていくのに必死でした。いまは、慣れてきたのもあって、メンバーに入って試合に出たい気持ちが出てきました」

 身長176センチ、体重88キロ。一線級にあってはやや小柄も、圧力下におけるハンドリング、ロングキック、防御のギャップで光る。大阪朝鮮高2年時から2季連続で高校日本代表に選ばれ、帝京大入り後も若手の登竜門であるジュニア・ジャパンに名を連ねた。

 学生時代は大型選手のひしめくインサイドCTBを任され、トップリーグ2連覇を目指す名門では司令塔のSOへ移る。

 ニュージーランド代表50キャップ(代表戦出場数)保持のアーロン・クルーデン、国際リーグのスーパーラグビーでゴールキックの連続成功記録を「38」に更新したヘイデン・パーカーらと、定位置を争う。

「やりやすさでいうと、ずっとプレーしてきたCTBがいい。ただCTBの層が厚く(神戸製鋼では日本代表のラファエレ ティモシーら身長180センチ超の選手が多い)、自分の体格を見て将来を考えたらSOのほうが長続きして、高いレベルを狙えるかなと。パーカーはオフフィールドでも自分にアドバイスをしてくれます。セットプレーの後の攻撃で、エリア、相手別にどんなオプションを使うのかを教えてくれました。練習後は、パーカーが誰よりも遅くまで残ってゴールキックを蹴っている。学ぶことは多いです」
 
 真の手本はダン・カーター。ニュージーランド代表112キャップを誇る司令塔で、神戸製鋼では中断された2019-2020シーズンまで2季プレーした。相手に触られぬ位置で球を得て、防御が乱れたのを確認してその箇所をラン、パス、キックで突く。

 レジェンドの過去映像は「助け」になっていると、李はうなずく。

「いまの神戸の選手のなかでも、ダン・カーターは教科書になっている。神戸のラグビーを完成させようとすると、10番(SO)がキーになる。常に正しい判断と、それをやり切るスキルが大事です。レベルが上がるにつれ、細かく明確なコミュニケーションを取れるかが重要になる。まず、早く自分の判断を伝える。特に(自身の前後に立つ)FWへ使うオプションや自分の立ち位置を明確に、細かく教える。そうすることでミスが少なくなって、コミュニケーションを取った味方の次のプレーも明確になります」

 目指すは国際舞台だ。2019年のワールドカップ日本大会では、8強入りした日本代表の具智元が印象に残るという。

 自身が韓国籍を持つとあり、韓国出身で中学から日本にいる右PRをこのように敬う。

「ラグビーは韓国、在日社会ではマイナーな部分があります。韓国から見れば日本はハイレベルな印象がある。それでも第一線に立ってワールドカップで活躍する具選手は、韓国の人からしたら憧れです。自分もワールドカップの舞台に出て、ひとりでも多くの在日の子どもにラグビーを始めて欲しいですね」

 2021年に20歳となった。人と異なる歩みを経て、自ら憧れの対象にならんとする。

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