ラグビーリパブリック

主将を助太刀。リコーのマッガーンが「虎」を「覚醒」させる。

2021.02.06

リコーブラックラムズ2季目のマット・マッガーン(撮影:向 風見也)


 キーワードは「信じること」だったと、マット・マッガーンは言う。話に景色がにじむ。

「ここまで、すごくハードワークをしてきたんです。時間が過ぎるとそれまでに何をしてきたかを忘れがちですが、気温が5、6度といういま、気温36度の暑い日もハードワークしてきたことを思い出しました。それらを振り返り、やってきたことを信じる…。今日は、それができた部分があったのではないでしょうか」

 加盟する国内トップリーグの開幕延期が決まり約3週間後の2月5日。都内にある本拠地のリコー砧グラウンドで、過去優勝5回のサントリーと練習試合を組んだ。ニュージーランド代表SOのボーデン・バレットらを先発させた優勝候補に17-21と惜敗も、手ごたえをつかむ。
 
 昨夏からオーストラリアのブランビーズのコーチ陣が合流し、底上げを図ってきた。

 FWを担当するローリー・マーフィーは、接点を制するスキルを多彩な個別練習で涵養(かんよう)。そのグループに属したFLの松橋周平、SHの高橋敏也は当日、ジャッカルで相手の反則を引き出した。

 かつてサントリーや日本代表も教えたピーター・ヒューワットは、簡潔な攻撃指針を打ち出す。

「ゲインラインを越えたら必ずスペースがある。そこへボールを運ぶ。(立ち位置への)セットを速く」

 果たしてBK陣は、速いテンポでサントリーのオフサイドを誘う。その隊列にいた1人がマッガーンである。

 最後尾のFBで先発した。

 攻撃ラインの後方から駆け上がり、目の前の防御に正対して大外へ球をさばく。パスの見本と言えるこの動きで、前半32分頃にはWTBであるロトアヘア アマナキ大洋のビッグゲインを促す。最後はロトアヘアから折り返しを受け取り、自らトライを決めた。

 身長185センチ、体重91キロの27歳は本来、司令塔のSOである。背番号を10から15へ変えたいま、「10番で培ったスキルを15番で活かすことをテーマにしています」と話す。

 10番に入ったのは新加入で21歳のアイザック・ルーカス。2人はオーストラリアのレッズで同僚だったことがあり、この午後も通称「アイザック」が防御へ仕掛け、援護に入ったマッガーンが防御の裏へ大きく蹴り込むシーンがあった。

 マッガーンは「(互いが)補完し合う形になっています」と続ける。

「彼はランニングゲームが得意。僕はサポート、ゲームを読む力、どこに行けばよりよくサポートできるかなどの直感力に自信があります」

 ラグビーリーグ(13人制)の名選手だったヒューを父に持ち、ニュージーランドとオーストラリアを行き来してきた。

 2015年からの2シーズンはニュージーランドからスーパーラグビーへ参戦のブルーズに在籍し、2017年に初来日。ヤマハで2季、戦った。2019年はレッズでプレーし、2020年のシーズンに向けてはニュージーランドの地方代表選手権であるマイター10カップに挑戦。やがて、ニュージーランドのクルセイダーズからオファーされたという。

 しかし、次なる働き場は日本に求めた。

 2018年度まで5季連続4強以上というヤマハにいた頃、最高成績が6位というリコーを「覚醒前の虎」と捉えていた。神鳥裕之監督のラブコールに応えて2季目のいま、こう意気込む。

「リコーが日本のトップになる手助けをしたい」

 主将就任4年目でCTBの濱野大輔は昨季、同学年のマッガーンから「何か自分が助けられることはないか」と投げかけられたという。

 松橋との共同主将制を敷いた2020年のシーズンは、結果的に不成立となるまで2勝4敗と苦しんでいた。当時のやり取りを回想する。

「僕とマツがしんどそうで、負担をかけたくないと思ってくれたようで。まずは自分自身のプレーに集中して欲しいと強く言われました。メッセージを伝える時には僕ら(他選手)を頼っていいとも」

 いまでは通称「ガンディ」を、計6名からなる部内のリーダーズグループへ招く。円陣のなかで自身が防御の指摘をした後に、「ガンディ」が攻撃面の修正点を述べる。役割分担を明確化する。

 濱野の弁によると、芝の外での「ガンディ」はひょうきんである。

「練習ではまじめにいろんなことを指摘してくれますが、それが終わったらチームを盛り上げるように片言の日本語でふざけたことを。ジムでもウォームアップでダンスをしていて…」

 1歳の長女、次女を妊娠中のパートナーとともに東京で暮らす。昨季中断後も、多くの外国人選手が帰国するかたわらこの国へとどまった。

 新型コロナウイルス感染症対策ではニュージーランドが大規模なロックダウンで評価されるも、マッガーンは、自身が把握する範囲での日本を信頼する。

「日本が清潔で、自分たちを大事にする国だと知っている。正しいことをきちんとし、言おうとしているところもあるし、僕たちも守られていると感じる。日本は安全です」

 いま意識するのは、1季でも長くこのクラブを支えることだ。

「リコーが僕を必要としてくれる限りはここにいたい。いいプレーをする、ハードトレーニングをする。そうすれば自ずと――長くいられるかを含め――結果はついてきます」

 2月20日、東京・秩父宮ラグビー場でパナソニックとの開幕節を迎える。

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