ラグビーリパブリック

レフリーとして、仲間と同じ舞台に。 池田韻[早大ラグビー部 3年]

2021.02.03

1月24日、第31回関東女子ラグビー大会準決勝、モーニングベアーズ×RKUグレースを担当。(撮影/松本かおり)

 心地よい笛の音が聞こえてきそうな名前だ。
 韻と書いて「ひびき」。池田韻は早大ラグビー部でレフリー(関東協会公認B級)として活動している。福岡高校から文学部に進学し、3年生になった。
 チームは1月11日におこなわれた全国大学選手権の決勝で天理大に28-55と敗れた。部員たちはいま、リスタートのときまで静かな時間を過ごしている。

 しかし、池田は動き続けている。1月24日には日体大健志台グラウンドにいた。
 同日におこなわれた第31回関東女子ラグビー大会(OTOWAカップ/15 人制)準決勝の第1試合でレフリーを務めた。
 冷たい雨の降る中、両チームが存分にファイトできる笛を吹いた。

 それが目指すスタイルだ。
 チーム、選手たちの力を引き出すレフリングを心がける。
「私の笛で試合(の勝敗)が決まるのではなく、お互いのチームが力を出し合って勝負が決まった方がいいと思っています」
 そのための準備も怠らない。

 早大の活動がない時期の試合だから、今回はいつもより少し時間的な余裕があった。いつもはラグビー部での活動に加え、自分がレフリーを担当する試合の準備もする。
「事前に(両チームの)映像を見て、プレーやペナルティの傾向をチェックします。そして試合前のブリーフィングで、留意してほしい点を伝えます」
 それでも足りないようなら、試合序盤の声掛けや笛で気づいてもらうケースもある。それが、正当なファイトで勝敗が決する結末を呼ぶ。

 レフリーを始めたのは大学に入学してからだ。2年時から女子や男子の大学、社会人下部リーグ、高校生の試合を担当するようになった。
 短い期間でそこまで駆け上がれたのは、日常的に経験を蓄積できる場があるからだ。早大ラグビー部の練習には毎回参加し、ブレイクダウンやスクラムの練習などで笛を吹く。

 トップレベルのスピードと強度を、連日、間近で体感できるのだ。その環境が進化のスピードを高めてくれている。
 毎日、選手たちより長くグラウンドに立つ。
「すべてのカテゴリーの練習に参加するので」
 Aチームだけでなく、ジュニアやコルツチームのセッションでも同じように笛を吹く。さらに、オンラインでルールを学ぶ。学生レフリーの先輩にポジショニングやチェックリストを教わる。
 ラグビーと関わっている時間の長さが成長を支えている。

 選手たちからのフィードバックも貴重だ。特にスクラムでの「声」は参考になる。
「最初の頃は確信を持てなくて、崩れたら組み直しにしてばかりいました」
 声があがった。
「判断してほしい、と。それで、自分の目に見えたもので笛を吹くようになったら、選手がいろいろと(体感やスクラム内部のことを)言ってくれるようになりました」
 引き出しを増やしていけた。

 広島大でプレーしていた父・顕吾さんの影響で、小学2年生のときから楕円球を追い始めた。弟がラグビースクール(玄海ジュニアRC)に通い始めるとき、同時に入部した。
 福岡高校で男子部員とともに練習し、福岡レディースにも所属して試合経験も積む。3年生のときには花園の芝も踏んだ(第97回全国高校大会)。U18花園女子15人制の試合に、西軍の7番として出場した。

◆池田韻のU18花園女子15人制出場時の写真

 大学でもプレーヤーを続けようと思ったが、迷った。肩のケガもあったからだ。
 転身のきっかけはラグビー部の顧問で、レフリー経験もある杉山英明先生の進言だった。
「すごく興味があったわけではないのですが、高校時代、タッチジャッジをしながら男子の試合を見るのが好きでした」
 しばらく考え、「レフリーだったら、長くグラウンドに立ち続けられると思い」決断した。

「私自身、プレーヤーとしては気持ちが前へ出るばかりで、オフサイドとか、反則の多い選手でした」と笑う21歳の夢は、いつか国際舞台に立つことだ。
 高校3年時、花園での試合にともに出場した両軍のメンバーは豪華だった。
「津久井萌や加藤幸子、小西想羅、大塚朱紗など、日本代表(15人制)として活躍している同期がたくさんいます。選手としては同じグラウンドには立てないので、私はレフリーとして同じような場所に立てたらいいな、と思っています」

 ラグビー部ではレフリー活動のほか、練習道具の管理やSNSなどの広報関連を手伝うこともある。
 自身の身体能力を高める時間も作る。「アジリティー(敏捷性)が弱みなので、そこを高めたい。あ、いつも男子部員と一緒にいるので足は速くなりました。(昨秋の)全国U18女子セブンズで、福岡レディースのコーチに『選手時代より速いぞ』と言われました」と話す。

 残り1年の学生生活。部の活動が始まれば、公式行事や公式戦を優先しながらレフリー活動を続けていく。
 卒業後も継続したい。就職先も、それを理解してくれるところを探すつもりだ。
 天理大相手に接点で受け、ペナルティも多かっただけに、上井草グラウンドでのブレイクダウン練習は激しさを増すだろう。それがまた、自分の判断力を高めてくれる。
 的確な笛を吹いてチームの進化に貢献したい。恩返しをしたい。

早大のスクラム練習時。韻(ひびき)の名には「周りとひびき合う。余韻を残せるような人生を」という願いが込められている。(撮影/松本かおり)
福岡高校3年時、U18花園女子15人制に出場した。左が池田韻。(撮影/太田裕史)
Exit mobile version