ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】目でいわす。片岡涼亮 [近鉄ライナーズCTB/WTB]

2021.02.02

笑顔の中にも鋭い眼光が見え隠れする近鉄の新人、片岡涼亮。1年目からCTB、WTBでの出場機会に恵まれそう



 面構えがいい。黒く細い目が光る。
 映画の残侠なんとかに出て来そう。常に臨戦態勢だ。

 近鉄ライナーズの片岡涼亮(りょうすけ)。そのスピードでCTBやWTBをこなす23歳の新人である。

 摂津四中時代の逸話が残る。
 流経大柏の松井英幸は初対面で言った。
「獲るよ。顔を見たらわかる」
 スキンヘッドもあり武闘派っぽい前監督は会話もせず、入学を確約する。

 重光泰昌は片岡を語る。
「タックルやコンタクト、すべてにおいて思い切りがいい。古い言葉を使えば、ガッツがあります。負けん気が強い。そこはラグビーをやる上で、めちゃくちゃ大事。その部分はコーチが教えられないからです。そして、そういう選手はチームに勇気を与えてくれる」

 重光はアタック&バックスコーチ。この紺×臙脂の司令塔として16年の現役時代を過ごした。2011年度にはトップリーグのベストフィフティーンにも選ばれる。その41歳の評価は高い。

 チームナンバー2のGMである飯泉景弘は、171センチと小柄な部分は問題にしない。
「先発の15人は難しいかもしれませんが、メンバー23人の中には入ってきます」
 松井の眼力は正しかった。

 片岡は近鉄グループホールディングスの総合職として、昨年4月に入社した。
 鉄道、バス、百貨店など100以上の協力会社を統べる社長になる資格を有する。
「同期はすごい。東大や京大なんかです。でも、みんな優しい。わからないことを聞けば、すぐに教えてくれます」
 片岡は立命館大出身。同期は37人いる。

 職場は近鉄不動産。賃貸事業部に籍を置き、スイミングスクールを担当している。ホームである花園ラグビー場の近くに通う。
「賃料や水道料の請求などの管理業務をしています。楽しいです」
 午前は仕事、午後はラグビーである。

 練習はクウェイド・クーパーやウィル・ゲニアとともにこなす。オーストラリア代表キャップは70と110。世界有数のHB団から日々、パスが飛んでくる。

 SOのクーパーからは挑むことを教わる。
 ボールを受けた時は接点ぎりぎり。あえて次につなげなかった。
「どうしてあの時、放らなかった? おまえが投げられるかどうかを俺は見ている」
 レジェンドは数か月前まで一介の大学生だった片岡に穏やかに問うた。

「立命の時はボールキープ優先でした。練習のミスは試合に出る、と言われ、50パーセントの確立ならパスしませんでした。その流れの中で、クウェイドはチャレンジする大切さを教えてくれました。もちろん成功するように、練習を積むことも含めてです」

 近鉄では手術歴のある右肩の可動域が広がった。持ち前の速さで右側から当たっても、強く絞れる。岡誠や飯田力らコンディションと医療系スタッフの連動によって、従来の攻撃だけでなく、守備力も上がる。



 片岡の目つきが鋭くなるのは小学校の高学年である。
「空手をやっていました。ヘッドギアをつけたフルコンタクトです」
 わずかな空間。孤立無援。痛み…。逃げず、向かって行く気持ちはこの時、養われる。

 摂津四中に入学後、競技を始める。関西より都会である関東へのあこがれもあり、流経大柏へ進む。高校3年間は大阪を離れ、千葉に住み暮らした。同期は神戸製鋼のFL粥塚諒やパナソニックのCTB新井翼である。

 高3の時には鮮烈な思い出が残る。
 朝4時、「起きろ!」の声がとどろく。
「火事かな、って思いました」
 グラウンドでは監督になった相亮太(あい・りょうた)がベンチコートを着て、仁王立ちしていた。100メートルのダッシュを137本こなした。
「まつげが凍っていたのを覚えています」
 極寒の中での根性練習だった。

「相先生はめちゃくちゃいい。精神論を含めた松井先生のいいところはもちろん、現代ラグビーの細かいところも採り入れています」
 相は情報科教員になる前は、トップリーグのリコーに9年間在籍。最先端を知る。

 片岡が高3時の全国大会は95回(2015年度)。3回戦で石見智翠館に19−24で敗れる。
 この年は監督交代もあり、結果がでなかったが、松井から相に受け継がれたチームは、今や全国4強1回、8強8回の名門に育つ。

 大学は関西に戻る。松井が間に入ってくれ、立命館に入る。主将だった4年時は選手権出場を逃す。関西6位に沈んだ。
「チームの和はあったと思います。ただ、ラグビーと勉強のバランスが難しかった」
 関関同立の一角は楕円球に人生をかけなくてもよい。大学名である程度、就職できる。集団をまとめる難しさを経験した。

 その不甲斐なさも社会人で払拭したい。
 トップリーグに準じるトップチャレンジの開幕戦は2月14日。初戦は清水建設。ホームの花園ラグビー場で13時にキックオフされる。無観客である。

「僕はアタックがすごいわけでも、タックルが強いわけでもない。人よりも勝っている部分は気持ち、姿勢だと思っています」
 目は細くなり、さらに光る。公式戦デビューはとるか、とられるか。命がけで行く。