ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】ラグビー談義ができる角打ち。木下裕義酒店 [大阪市中央区] 

2021.01.28

大阪・松屋町筋にある木下裕義酒店の店主・木下忠彦さん。筋金入りのラグビーファンである。かぶっている帽子は2019年ワールドカップのもの。テレビ画面は天理×早稲田に設定されている。以前はアサヒビールに勤めていた

大きなえんじ色ののれんがひときわ目を引く木下裕義酒店



「あん時はねえ、前半は15−3ですわ。京産からスクラムトライを2本獲られたもんやから、明治は戦い方を変えてきよった。キックと吉田君にボールを持たす作戦ですわ」

 30年前でも昨日のことのように覚えてる。木下忠彦はんの丸いおめめは輝くで。ラグビー記者ちゃう。生業は酒屋の大将や。

 大学選手権で三木兄弟の対決が話題になったわなあ。慶應の亮弥と京産の皓正。試合は47−14で兄貴が貫録勝ちや。2人のオヤジ、康司(やすし)はんに話が及んだ。

 大将は立て板に水のごとく、オヤジが京産4年の選手権を解説する。27回大会(1990年度)の準決勝は明治が29−15で逆転勝利や。紫紺のWTBはヨシヒトはん。キャップ30で日本の翼になったな。

「大将はラグビーおたくやねんわ」
 常連さんのひとりがそう説明する。いや、その上を行ってんやないかな。
 年末年始には店内のテレビが1増の3台になり、3つのグラウンドで繰り広げられる高校大会を網羅する。

 大将のお店「木下裕義酒店」は大阪の中心部を北から南に貫く通りのひとつ、松屋町筋にある。読みは「まっちゃまち」。昔は人形や結納品、今はおもちゃで有名や。向かいには展示場の「マイドームおおさか」がある。

 大将とこはいわゆる「角打ち」(かくうち)。昼は酒屋をやりながら、夜は乾きもんや缶詰など簡単な肴(あて)で飲ます。店で酒を買った客がその場で飲む、という構図やね。

 瓶ビールや酎ハイは安い。缶ひとつとかっぱえびせんで400円ほど。
「うちみたいなとこは売れてるもんに支持が集まります」
 とは言うものの日本酒は池田の呉春を出す。

 店はいつも上方のあきんど方を中心に混んでいる。椅子は生ビールの空き樽を改良、店内の年季の入った黒光りもまた集客になる。

 開業は1956年(昭和31)。店の名前になってる父・裕義はんと母・かよ子はんが始めた。大将は二代目やな。
「わしがこの店に最初に来たんは44歳の時やで。もう70歳になってしもたわ」
 常連さんのつぶやきが聞こえる。

 大将、お年は?
「平尾、大八木世代ですな。3連覇の時には国立に応援に行きましたで」
 ミスターラグビーやアッシーはんとは同窓。同志社は2人を中心に19回目の大学選手権(1982年度)から3年、覇権を守った。



 大将はワンダーフォーゲル部やった。
「尾根づたいに渡って行くのがワンゲルですわ。下から上が山岳部やね」
 その違いを教えてくれるで。槍や剣など難所を持つ山は軒並み制覇や。

 へー、山に興味がありはってんね?
「いや、コールフリューゲルという合唱のサークルに入ろうと思ってたんですわ。名前が似てて、部室を間違えて…」

 ラグビーにハマったのは清風の高校時代。1980年の早慶戦をテレビで見てからや。試合は16−16の引き分けやった。

「ラグビー部がなかったんもあるんでしょう。せやからよけいにね。ラグビーってスポーツの複合ですやん。相撲とサッカーを足したようなもの。色んな要素が入ってます」

 宝ものは1989年5月のスコットランド戦のビデオテープ。我らがジャパンは28−24で勝利する。ラグビー先進国である旧IRBの8か国から挙げた最初の白星になったんやね。

「ダビングして友達にばらまきましたわ。2015年の南ア戦と今回で色あせてしまったけど、僕はええ色あせ方やと思っています」

 前回のワールドカップでは南アフリカに34−32の金星を挙げ、次の日本開催では初の8強入りや。せやけど、大将にとって強い代表の原点は、あの蒸し暑かった32年前の秩父宮でのテストマッチやねんな。

 2019年は司令塔の優さまにしびれた。
「田村君の強気なところ、いいっすね。『南ア以外には勝てた』って言ったでしょう。その通り。僕もそう思ってましたもん」

 しかし、さみしさもある。
「同志社の子が誰ひとり入ってへん」
 大阪の人間として、天理の優勝はうれしい。「36年ぶりですよ」
 関西に覇権が帰ってくる。監督のセツオはんが後輩ちゅうことももちろん知ってる。せやけど願うのは紺グレの復活や。

 同志社を卒業して約5年して店に入る。その間はアサヒビールにつとめた。
「父と母に感謝です。よう、こんなええ店を残してくれた」
 これからどないしていきまっか?
「今のこのスタイルでどんだけ続けていけるか。挑戦ですわ」

 大将は言う。
「嫌な客でもラグビーの話が出てくれば、許します」
 みんな、楕円球情報を持って集合や。ほな、楽しく、安い酒を飲ませてくれはるし。

◆木下裕義酒店◆
■住所 〒540−0024 大阪市中央区南新町2−3−1
■電話 06−6941−1551
■営業時間 午後5時〜同11時。自粛要請期間中は8時に閉店
■定休日 日曜、祝日
■座席 26席ほど。4人掛けのテーブルが4つ、あとはカウンター
■予約 可能
■最寄り駅 大阪メトロの堺筋本町。1番出口から東北方向に徒歩6分ほど

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