サントリーラグビー部の新主将となった中村亮土がびっくりしたのは年末年始。折しも、ディレクター・オブ・ラグビーのエディー・ジョーンズがチームに合流していた。
現在イングランド代表を率いてもいるジョーンズは、日本代表のヘッドコーチとなる2012年春までの3シーズン、サントリーのゼネラルマネージャー、監督などを歴任した。
練習中の弛緩した空気を逃さぬ厳しい視線、早朝から深夜に及ぶ猛烈な職務遂行によって、規律あるクラブ文化を醸成。さらには指揮を執った2010年度からの2季でタイトル3冠と、結果も残した。
昨年の暮れから今年の1月上旬までの間は、同時並行で進む練習メニューのひとつや、練習後の若手の補足メニューを指導したようだ。2023年のワールドカップ・フランス大会ではイングランド代表と日本代表がプールステージで同組も、「サントリー府中スポーツセンター」にいるジョーンズはあくまでサントリーの人だったらしい。
帝京大時代に日本代表でジョーンズへ師事した中村いわく、「緊張感はいつもより高くなります。エディーさんの時代を知っている選手、スタッフはピリッとした雰囲気に」。裏を返せば、当時を知らない若手の雰囲気は異なった。
名伯楽に敬意を示しているのは間違いないのだろうが、挨拶の代わりにジョーンズの尻を「ポン」と叩く者も見られた。中村が驚いたのはそのためだ。
時代は変わったな、と感じた。
この話をしたのは1月4日。所属選手7名に新型コロナウイルス感染症の陽性反応が確認される4日前のことだ。
その後は保健所の指導により、31名の濃厚接触者が確認された。そのうち2名が新たな陽性反応者となった。1月22日の活動再開までの間、チームは感染拡大防止策をアップデートする。
マスクをつけておこなうトレーニングを増やしたり、一度に大浴場を使う人数を最大3名に定めたり。万が一、新たな感染がわかっても、濃厚接触者の数を最小化させるのが狙いだ。
当初より1か月以上遅れた2月20日のトップリーグ開幕(サントリーの初戦は21日)の瞬間はもちろん、5月下旬にシーズンを終えるまで活動は止めたくない。
振り返れば昨季のトップリーグも、社会情勢の変化などのため昨年2月下旬に打ち切られた。中村は、当時感じた手ごたえを再びフィールドで表現したい。
「去年のシーズンではサントリーのラグビーの完成に近いような形になっていたなか、中断となった。いま(1月上旬)、それに戻っている。これから、シーズンのなかでも成長できる」
シーズンを無事に終えれば、日本代表の活動を見据える。
ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる現体制は、2019年のワールドカップ日本大会で史上初の8強入り。中村も全5試合にCTBで先発した。
現在の登録を「181センチ、92キロ」とし、大会期間中は身長をさらに3センチ低く定めていた。ランナーの足元へ突き刺さるタックル、鍛錬の積み重ねによる多彩なパススキル、防御時のスペースを埋める予測能力で、列強国との体格差を無効化してきた。
次の6月に30歳となる。これから始まるトップリーグのパフォーマンスで、再選出を目指す。
今後は天理大で大学日本一に輝いたシオサイア・フィフィタら、新たなライバルとの競争が課される。「お互い刺激を与え合って切磋琢磨するだけ」。突破力を高めながら、従来の持ち味も磨く。
「新しい人材も入ってくると思うので、僕自身もレベルアップしていかないといけない。いままでやってきたことをより正確に、ゲームを読みながらやる。脅威になるためには突破を意識してやっていきたいですが、僕の持ち味は消したらだめで。ゲームコントロール、ディフェンスは引き続きインターナショナルスタンダードを保つ。もう一度、いちからセレクションがされて、ちゃんと認められたうえで選ばれたい」
2020年は予定された5つの代表戦をおこなえなかったが、今年6月にはブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに挑める。
4年に一度しか結成されない英国・アイルランド連合軍にぶつかるのだ。その価値は、楕円球界に深く浸かった者ほど理解できよう。24キャップ(代表戦出場数)保持の中村はこうだ。
「必死にラグビーをやるだけじゃ出られない試合。タイミングと、運を含めたすべてが合わさることで出られるようなもので。出たい気持ちはあります。いまはまず、自分のやるべきことをやる」
2020年に水面下で編まれた代表候補にも名を連ね、共有されたトレーニングメニューでフィットネス、フィジカリティを鍛えていた。
「合宿のスケジュールを渡された感じで、かつラグビーの練習がない。相当、きつかったですね。おかげで身体の状態は維持できました」
世界が沈んだ折も、目の前の「やるべきこと」を前向きにやり抜いてきた。その自負を胸に、時代が変わってからもインパクトを示す。