ラグビーリパブリック

天理大学特集! 9年前の初決勝から変わらない色(前編)

2021.01.20

左からWTB宮前勇規、PR金光大生、SO立川理道、WTB木村和也、LO上田聖(撮影:早浪章弘)

 1月11日、天理大は大学選手権決勝で早大を55-28で破り、初の日本一を成し遂げた。天理大はこれまで3度決勝に進出している。初の決勝進出は2011年だった。決勝では帝京大に12-15で敗れはしたが、立派な準優勝を果たした。功労者5人が決勝終了直後、ラグビーマガジンの取材に応じてくれた。前編ではPR金光大生、WTB宮前勇規、WTB木村和也の3人を紹介したい。

ラグビーマガジン2012年3月号掲載(1月16日インタビュー)
文◎森本優子

天理大学[第48回大学選手権準優勝]
TRUE COLORS.
~それぞれの色~

かつて名司令塔トニー・ブラウンは言った。
「プレッシャーにさらされる中、積極的に試合に関わることもできるし、隠れてしまうこともできる。ラグビーはそういう競技なんだ」
正月、国立競技場を駆けた天理大学は、誰一人として隠れることのないチームだった。
だからこそ、スタンドの称賛を得た。
彼らは必ずしも高校時代からスポットライトを浴びていた選手ばかりではない。
今回は先発メンバーで花園出場経験のない4人と立川理道主将に、高校時代のジャージーを持ち寄ってもらった。
様々な色が集まったからこそ、黒は大舞台で輝きを放ったのだ。


 公立校の星。なんて安易なフレーズは使いたくないけれど、今季の大学ラグビーは、確かに彼らが彩ってくれた。この日の撮影のために各自が持ち寄ってくれたジャージーは個人所有ではなく、母校で大切に管理されているものだ。高校3年間、花園も身近な存在ではなかった。それでも努力を続けて、見守ってくれる人がいて、仲間がいれば、頂点にだって手が届く。だってラグビーはチームスポーツなのだから。

小さくても、やれる。
PR③金光大生[安芸南/広島]

 天理の3番を背負う金光大生のサイズは168㌢99㌔。「自分より小柄な相手は見たことがない」というが、学生最強の帝京フロントローに対して、どのチームよりやりあった。

 父の影響で小5から府中RSでラグビーを始め、中学は鯉城RS、高校は安芸南でラグビーを続けた。

 チームでは2年の昨季からレギュラーだったが、今季は開幕1週間前に首を負傷。自然治癒では1年かかると言われ、翌週に手術に踏み切った。戦列に復帰したのは、関西リーグ最終戦・関西学大戦。

「ギリギリ間に合いました。しばらく試合してなかったんで心配でしたけど、出たら楽しくて、”ラグビーやってよかったな”と」

 小柄なぶん、スクラムでこだわるのはヒットの瞬間。

「僕の場合は体重がないので、ヒットで勝負を仕掛けます。そこで遅れると組み勝っても持っていかれるので。帝京大戦は押される過程での球出しをずっと練習して、それがうまくいった。ファーストスクラムで押されはしましたけど、”これならいける”と感じた。春に神戸製鋼とかと試合していたから、トップリーグのチームほどではなかった」

 チームは日本選手権を残すが、3年の金光にはもう一度大学選手権に挑戦する機会がある。

「試合後は悔しくて立ち上がれなかったんですけど、収穫も課題も見つかった。試合後、3年生で”もう一度頑張ろう”と声をかけあいました」

当時3年生、PR金光大生(撮影:早浪章弘)

走ることしか考えない。
WTB⑭宮前勇規[名張西/三重]

 関西リーグ7試合、大学選手権4試合すべてで計14トライを奪ったWTB宮前勇規。レギュラーになったのは今季だから、まさに「彗星のごとく」登場したフィニッシャーだ。

 中学校では野球部。名張西に入学後「無理やり連れて行かれた」ラグビー部で、面白さに魅せられた。その脚力は高校時代から注目され2、3年とオール三重に選ばれ、U18東西対抗戦にも出場している。

 チームが毎年行っている大阪・上宮太子との合同練習の際、天理OBの同校監督の勧めで天理に入学した。「強い高校から来た仲間は”高校の方がしんどい”と言ってたんですが、僕は高校の練習が楽だったので(笑)、慣れるまでが大変でした」

 宮前が「いける」と手ごたえをつかんだのは夏合宿。練習試合で明治に勝ってからだ。

「明治なんて、それまでテレビで見てたチーム。そこに勝てて、自分たちもやれるんだ、と。今年、相手はフロントスリーに気をとられて外が余ることが多い。スペースがある状態でボールをもらえるので、いろんなことができて楽しいですね。パスは苦手なので、ボールをもらったら走ることしか考えてない」

 現在、名張西の部員は2名。高校時代の恩師はわざわざ国立に足を運んで応援してくれた。自分が活躍することが、少しでも母校の後押しになるのなら最高だ。

当時3年生、WTB宮前勇規(撮影:早浪章弘)

年を越してラグビーができる。
WTB⑪木村和也[県立川口/埼玉]

 決勝で電光石火の走りで先制トライを決めたWTB木村和也。関西出身の選手が多い中、埼玉県川口高の出身。ラグビー好きの父に連れられ、小さい頃から秩父宮や国立に通っていた。小2のとき、地元・川口にラグビースクールができたことで楕円球の道へ。中学ではラグビー部はなくテニス部に所属。月に1回、県内のRS指導者が中学にラグビー部のない生徒たちを集めて指導する請習会に、熊谷まで通っていた。

「テニスを始めたら面白くて、はまった時期もあったんですけど、結局ラグビーが好きで戻りましたね」

 地元川口高校に進学。兄・太郎さんも所属していた縁で天理に入学する。1年のときは先輩のケガもあり、FB、WTBでスタメンに抜擢されたが、翌年、メンバー表に名前はない。「春のオープン戦で手首を折ったのが長引いて、結局、復帰したのは関西リーグの終わり。リハビリ中はボールも持てないから、走ることしかできなかった。あの時期が一番つらかったですね」

 翌年からはレギュラーに定着、ポジションを守り続けた。

「帝京大戦は応援してくれる皆のためにも勝ちたかったけど、最後の最後で力の差を見せつけられた。FWが頑張ってくれたから、あの点差だったんだと思います」

 卒業後は兵庫県警に就職する。本当はラグビーを続けたかったが、声をかけてくれるチームはなかった。

 兵庫県には強豪クラブ六甲ファイティングブルもあるが、職業柄、土日が休めるはずもない。木村にとってはこれから迎える日本選手権が、ラストステージになる。

「年を越してラグビーができるなんて初めてのこと。いい経験。日本選手権にまた頑張っていきます」(つづく)

当時4年生、WTB木村和也(撮影:早浪章弘)


◎第48回大学選手権決勝(2012年1月11日) 帝京大15―12天理大

【帝京大メンバー】

1.吉田康平 2.白隆尚 3.前田龍佑 4.ティモシー・ボンド 5.ジョシュア・マニング 6.大和田立 7.松永浩平 8.李聖彰 9.滑川剛人 10.森田佳寿 11.菅谷優 12.南橋直哉 13.中村亮土 14.伊藤拓巳 15.竹田宜純 16.佐藤啓示 17.辻井健太 18.小山田岳 19.木下修一 20.中村有志 21.橋口功 22.小野寛智

【天理大メンバー】

1.藤原丈宏 2.芳野寛 3.金光大生 4.田村玲一 5.上田聖 6.唄圭太 7.関口卓雄 8.山路和希 9.井上大介 10.立川理道 11.木村和也 12.アイセア・ハベア 13.トニシオ・バイフ 14.宮前勇規 15.塚本健太 16.清水洋志 17.高屋敷拓也 18.村東宣佳 19.渡部文泰 20.山本昌太 21.鈴木心喜 22.松井謙斗