1月11日、天理大は大学選手権決勝で早大を55-28で破り、初の日本一を成し遂げた。天理大はこれまで3度決勝に進出している。初の決勝進出は2011年。決勝では帝京大に12-15で敗れた。チームを率いたのは小松節夫監督だった。その年の夏には、ラグビークリニックの取材に応じている。第3回では、10年経ってもぶれることのない小松監督の指導スタイルを振り返る。(4回連載・第3回)
◆第1回(指導者を目指すきっかけとなったフランス留学)
◆第2回(同志社大、日新製鋼を経て天理大のコーチ、監督になる)
ラグビークリニックVol.26掲載(2011年7月6日インタビュー)
文◎村上晃一
小松節夫[天理大学監督]
Coaching My Way
人材によって戦い方を変えるのではなく、
人材を得れば勝てる、というスタイルを作り上げる
――項点まで行けるという手応えをつかんだのはいつ頃ですか。
「ここ3年ですよ。関西で、3位、2位、1位と順位を上げた。やっと、日本一を目指すと言っても誰も笑わなくなりました」
――いずれはそうなりたいと思っていたわけですよね。
「天理は、私学の有名校でもなく、学部も体育と外国語しかない(現在は人間学部と文学部がある)。人材に恵まれるチームではありません。ということは、天理に来てくれた選手が、『弱かったけど、面白かった』と思えること。それは、最低限僕らが選手に与えてあげられるものだと思います。それを続ける中で、戦力が充実すれば勝てるラグビーができてきた。人材によって戦い方を変えるのではなく、人材を得れば勝てるというスタイルです。ここ数年は、昨季のキャプテンだった立川直道(当時クボタ、現清水建設)やトンガからの留学生が入ってきてくれた。今までのスタイルを変えずに結果が出始めたわけです」
――人材を得れば勝てるスタイルとは、どんなものですか。
「天理に脈々と伝わるスタイルは、身体は小さいけど走り回って、大きなチームを倒すラグビーです。我々のような小さなチームは、きめ細かいところにこだわっていかないと勝てない。たくさんの約束事を守り、無駄のない動きをする。そうしてチーム作りしているところに、強い選手や大きな選手が入ってくれば、チームカは上がりますよね」
――リアクションスピードを上げることについても、徹底して取り組まれていますよね。
「どれだけ寝ている選手を少なくするか、ミスを最小限にするか、リアクションスピードがすべてです。いいチームは、ミスのとき、チーム全体のスピードが変わります。ボールに群がる。チャンスならすぐにボールが出てくるし、自分逹のミスなら相手ボールにならないようにする。これは、普段の練習からうるさく言い続けるしかありません。オールブラックスのリッチー・マコウを見てもわかるように、結局は危機管理能力なんです。セオリーを無視しても危ない場所を埋められるチームは強い。これを『クセ』にすることが必要です。その都度言う。指摘しなければ身につきません」
――積み重ねたことしか、試合には出ないのですね。
「天理相手には、コーナーぎりぎりにしかトライできない、というチームになりたい。あきらめて、インゴールの真ん中に行かれてしまうようなことがあれば、『あきらめるな』と怒ります」(続く)
PROFILE
こまつ・せつお
■1963年3 月3 日生まれ。現役時代はCTB、176㌢74㌔ 。
天理高→同志社大→日新製鋼。80年度高校日本代表。
同期には平尾誠二氏(神戸製鋼GM) 、高崎利明(U20日本代表監督)らがいた。高校卒業後、パリのラシンクラブに2年間留学。帰国後同志社大に入学し、
その後、日新製鋼に入社。93年度より天理大学コーチ、95年度より監督を務める。