前向きだ。天理大ラグビー部の松岡大和主将は1月2日、大学選手権の準決勝で心を躍らせていた。
悲願の初優勝を目指し、過去13回の日本一という明大に挑んだ。昨年来、観客の声援は制限され、都内の根強い明大ファンも手を叩いてエールを送っていた。松岡はこうだ。
「僕らに拍手しているのかなって。全然、アウェー感がなかった」
自軍スクラムの際は大きな声を響かせ、やや静かなグラウンドをざわつかせた。試合は41-15で制し、2季ぶりに決勝に進んだ。東京・国立競技場で11日、昨季王者の早大に挑む。
改めて、自軍の特徴を語る。
「天理の選手には、やったるぞという気持ちが強いんじゃないですかね。花園(全国高校大会)に出られなかったことなどいろいろと悔しい思いを持ちながら、ここで競争している。実際、僕もそれで成長しました。やる気のある選手、ハングリーな選手が多い」
6歳上の兄を追って入った甲南中で、サッカーからラグビーに転じた。
競技の奥深さ、おもしろさを知ったのは留学経験からだ。中学3年、高校1~3年の春休みや夏休みを利用し、何度もニュージーランドへ渡った。
大学入学前にはカンタベリー地方の名門クルセイダーズのアカデミーに在籍。2、3年時も現地入りした。
「特に練習で『こういうスキルもあんねや!』(と感銘を受けた)。それに外国人選手は『もっとうまくなろう』とどん欲。練習が終わるとすぐに帰りますけど、練習中はさぼる人もいないし、なんなら必死です。(留学中は)ホームステイで英語を使いました。日本の学校では英語の先生にすごくお世話になっていたので(滞在先での)聞き取りは大丈夫でした。ラグビーのコミュニケーションもちょっとずつ勉強しながら…という感じでした」
内部進学した高校では、主将として県4強入りした。東大阪市花園ラグビー場での全国大会とは無縁も、天理大の首脳陣にスカウトされた。
甲南高生の多くは、内部進学や難関校受験に傾く。そのためか、当初は天理大入りを両親に反対された。しかし、「僕が行きたいと言った。僕が甲南で初(の部員)のはずです」。奈良県北西部の山々に囲まれた場所で、競技に没頭する。3年からレギュラーに定着し、最終学年は主将となった。
有名選手の獲得からやや遠ざかる傾向からか、天理大はメディアなどで「他校との差を猛烈な練習量で埋めているのでは」との仮説を立てられがちだ。その向きに小松節夫監督は「そんなん、言わんといて欲しい。(声をかけている)高校生が『やめとこ』となるかもしれないから」と冗談交じりに言い、松岡はこの調子だ。
「どうなんすかね? 僕はラグビー大好きやから、しんどいよりも楽しいが先に来る! 限られた練習でどれだけ試合を意識してやるか…と、上のチーム(主力組)だけではなく下のチーム(控え組)もやっています」
決勝戦当日も、定位置のFLに入って果敢に身体をぶつけるつもりだ。
「名前で勝負しているわけじゃない。そこはずっと変わらないです」