時折、舌を出して走り切る。
普段から楽しそうにプレーする古賀由教だが、「試合前はテンション低めなので」と言った。
「緊張しているし、ナイーブになる。試合が始まるまでは強気なことも言えないし、最悪なイメージが(心に)ずっと、ずっと出てくる感じです」
話をしたのは1月7日。大学選手権の決勝を4日後に控えていた。当日は東京・国立競技場で、関西大学Aリーグ5連覇中の天理大とぶつかる。
天理大は1月2日、東京・秩父宮ラグビー場での準決勝で明大を41-15で下している。
早大は明大に12月6日の関東大学対抗戦A・最終節で14-34と敗れており、かねてリベンジを期していた。ところが、戦力充実の明大を天理大が複層的な攻めとタフな防御で破ったのだ。
CTBのシオサイア・フィフィタら大外のランナーへどう対処するかと聞かれ、左端に位置するWTBの古賀は「(自軍のつながりを)切らさないようにしたい」。繊細な感情を吐露したのは、この流れでのことだ。
もっとも最後はこうだ。
「ゲームになったら、楽しめるとは、思います」
兵庫県の芦屋大附属幼稚園で楕円球と出会い、岩園小、啓明学院中、東福岡高を経ていまは早大4季目を迎える。
身長175センチ、体重82キロと決して大柄ではないが、スピード豊かな走りと危機察知能力を長所に高校日本代表、20歳以下日本代表などへ選ばれてきた。
今季は徐々に調子を上げてきた。
通常より約1か月遅れて対抗戦が始まった10月は、「(最後に出た公式戦から)日にちが経って、感覚がつかめていなかった」とのことだ。前年度まで4年間レギュラーだった選手が大量に卒業したばかりとあって、新たなメンバーとの連係や共通言語の共有にも時間がかかったという。
もっとも冬までの間に、互いの呼吸を把握するようになった。
例えばインサイドCTBが現サントリーの中野将伍から平井亮佑、中西亮太朗、伊藤大祐に代わったなか、「(それぞれ)ディフェンスのレンジ(守備範囲)が違うなか、(どこをカバーするかの)コミュニケーションがだんだん取れるようになってきたし、(相手が単語で伝えてくる内容が)だんだんわかるようになってきた」。その流れで、いい形で走り切る機会を増やした。
2日、大学選手権準決勝。早大は後半7分、自陣10メートル線付近右のラインアウトから展開する。CTBの伊藤が深い位置から走り込んで左中間のスペースを切ると、左にいたFBの河瀬諒介へつなぐ。
トライを決めたのは古賀だ。河瀬の左を並走し、河瀬を狙う相手タックラーの背後でパスを受け取る。ここから約40メートル、快走した。
直後のゴールキック成功で28-13とし、帝京大に33-27で勝った。
「チームの成長とともに、自分も少しずつは成長できているのかなと」
ここから目指すのは、2季連続での大学日本一だ。その大義を問われた古賀は、縁あって加わったクラブの未来について語る。
現4年生の入学した2017年度、部内で用いられたスポーツ推薦枠はわずか4。オリンピック出場の見込めるトップアスリート推薦が活用されるかは、年度によって変わる。
その他に高校ラグビー界の有名選手を集めるとしたら、通知表の中身が問われる自己推薦制度、一般入試など不合格の可能性もある受験システムに頼るほかない。少なくとも当事者は、20以上ものスポーツ推薦枠が用意された他校に比べ条件が厳しいと見る。
古賀がスポーツ推薦でいまの進路を切り開いたのは、少年時代に早大の隆盛ぶりを見て感銘を受けたからだ。武川正敏、後藤翔太、権丈太郎といった現コーチ陣は、計5度の大学日本一に輝いた2000年代にプレーしていた。
歴史的背景を踏まえ、古賀は強調する。
「僕やいまの4年生は、小さい頃から強い早稲田に憧れてきた。僕たちが、僕たちの憧れた翔太さんたちのようになるには勝たないといけない。勝たないと、いまの子たちは早稲田を目指してはくれないのかなって。早稲田はあまり推薦で人を入れられないですけど、10~15年後に早稲田を目指す子が増えてくれたらなと思います」
特異な時代に使命感を抱いてきた。改めて、当日は楽しくプレーする。