キックオフと終了の笛をいい顔で迎えられたら、ラグビーはそれでいい。
2021年1月3日、全国高校大会準々決勝で東海大仰星と東福岡が対戦し、21-21の同点となった。規定により抽選の末、東福岡が準決勝進出を決めた。
◆東海大仰星と東福岡の終了の笛。すぐに健闘を称えあう穏やかな表情
東海大仰星が先行し、逆転した東福岡が一時21-7までリードし、後半15分から仰星が2トライ2ゴールを決めて追いついて、試合は終わったと思ったらドラマはそこから始まった。後半21分からの出来事だ。
「楽しかったです。後半の終わりは、ずっと楽しかった」
疲労と、何十発も食らったタックルで全身が痛みでいっぱいのはずのヒガシのPR本田啓が穏やかに振り返る。
「疲労は……最後はそういう感覚はありませんでした」
嘘でしょ、と返したくなる感想を残すのは、同じく東福岡のキャプテン永住健琉。LOという、最も消耗の激しいポジションで、長い長い後半を戦い切った極限の心境だ。
おそらく高校ラグビー史上最長のインジャリータイム、時計は48分40秒を回っていた。30分ハーフの後半が、プラス19分間近くも続いた。
その間、覚悟を決めた東福岡はFWで突進を繰り返した。ペナルティゴールのチャンスにもスクラムを選択してFWに賭けた。仰星はひたすらにタックルを繰り返し、ある時間帯は22㍍ライン上で5分近くラックサイドを守り切った。
この間、18分の戦況はほぼそれだけだ。試合を通じて、プレーはごくシンプルだった。終盤はそれが極まった。走り、止め、味方にボールを託し、また進む。そんな単純なプレーが、とてつもなく速くて強くて、時間をおうごとリズミカルになっていった。
「後半47分」に、負傷と判断されて入れ替えになった仰星NO8倉橋歓太は、ベンチがその決断をするまでの間、にこやかにさわやかにタッチラインで笑っていた。奮い立つ心に従い、エンプティーランプ灯る体に嘘をつく。絶対に交代したくなかったからだ。その場の誰もがそんな心持ちになっていたのかもしれない。
佐々木裕司レフリーが18分以上もノーサイドを告げられなかったのは、その間、どちらもボールをこぼさず、目の前の勝負から誰も逃げ出さなかったからだ。
抽選の封筒を先に引いた東海大仰星の近藤翔耶主将は、メディアの前に出ても最後まで毅然と振る舞った。時々こみ上げるものを抑えようと胸を張って話す姿が立派だった。
「東福岡さんと仰星の違いは、自分たちのやるべきことをやり切れたかどうかでした。終わった瞬間、相手のキャプテンにはナイスゲームと伝えました。相手もナイスゲームと言ったと思います。後半の最後の方は、勝ち負けというより、東福岡さんと戦っているというより、もう30人でラグビーをしている感じでした。敵味方がなくなって。ノーサイドが、笛よりも先に来ていました」
最後は仰星のノックオンで、終了の笛。選手たちはどっち側に攻めていたかに関係なく、近くにいる者と目を合わせた。笑みと握手、抱擁。両足とも痙攣して立ち上がれない選手もいた。それぞれに抱えた悔いや無念をあらわにするのは、互いの挨拶のあとと、抽選の前だけだった。
世界中が特別で複雑だったこの年は、日本中の高校生が、いつも以上にたくさんの準備や心配ごとに奔走した。その代表として8チームだけがたどり着いた花園の芝で、長年のライバルの対決は、爽やかなまでにシンプルな戦いに昇華した。仰星21-21東福岡。両校の花園対戦戦績は、仰星5勝、ヒガシ が4勝、そして1分けになった。
また、花園に教わった。
キックオフと終了の笛をいい顔で迎えられたら、ラグビーは、最高なんだ。
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