ラグビーリパブリック

第100回、あす準々決勝! みんなの花園② 初めての勝利

2021.01.02

1年前に単独チームに復活した正則高校、「初」勝利後の笑顔(撮影:正則高校ラグビー部)

 あす準々決勝を迎える第100回全国高校大会。出場は記念大会ゆえいつもよりも12校も多い63校。ただ、その裾野はもっとずっと広い。花園はみんなのもの。

◆正則高校のメンバー。中庭のような校庭を笑顔が走る

 2020年12月20日に初めて勝ったチームがある。本当は、過去にもたくさんの勝利を挙げている伝統あるチームだが、いつか部員が集まらなくなり、合同チームの時代を潜り抜けた。再び単独チームとなって1年。この「復活」後、初めての勝利だった。

 東京の私立正則高校は3年生12人(マネージャー1人)、2年11人、1年15人(マネージャー2人)のラグビー部だ。長く部員不足に苦しみ、一時期は部員が1名となるピンチもあった。3年生が花園予選を秋に引退した後の2年生が、1名になってしまったのだ。冬を越え彼が部員のまま踏ん張って3年になった春、1年生が加わってくれ、「命」はつながった。合同チームで周囲の学校のサポートを受けながら仲間の輪を広げて、合同を卒業し、単独チームになったのが2019年。ここがまず快挙だ。いったん合同になったチームが再び15人、20人と部員を集めるのは簡単なことではない。それをかなえて、しかも、維持している。

 正則24-7都立六郷工科。12月20日、葛西工業高校グラウンドにて。

 勝利は、部員が集まり続ける状態を作るための工夫を絶え間なく更新してきたことの象徴だ。

 正則ラグビーに推薦入学はない。まだ強豪でもない。2020年、活動が制限される中で13人もの1年生、2人のマネージャーがクラブの門を叩いたのにはどんないきさつがあるのだろう。顧問、監督の宇田先生はワールドカップの影響は大きい、という。

「2015年は、そうですね。ラグビーの激しさがメディアで多く流れて、一般の子には、かえって敬遠されたかもしれません」(宇田先生)

「2019年は、自国開催の注目の中で、ジャパンがもっとすごい活躍をしてくれた。日本が負けた後も、注目は続きました。4年前よりももっと深いものが、限られたヒーローではなく、多くの人の人間性みたいな面までが、一般の人に伝わった」

 この春は、どのクラブも対面の勧誘活動ができなかった。そんな中で新入生たち引きつけたのは、部員の活気と笑顔だった、ラグビーそのものの空気だったと、宇田先生は感じた。

「部活どうし校庭をわけあって、平日は週2で45分だけ、テニスコート一面のスペース。それでも、ワイワイしてる生徒たちの夢中な顔は、よかったですよ。そもそもうちは、ハードのことを言い訳にしたら成立しない環境なので」(宇田先生)

 あの人たちと一緒に過ごしたら、なんかいい3年間になるかも。男の子も女の子も引きつける魅力が、ラグビー部にはあったんだろう。

 勧誘はダメ押しが大切だ。体験入部での武器は楽しいタグラグビー、タッチフットだ。今回はタッチもタグさえも使えなかったから、手のひらをパチンと鳴らすことでその代わりにした。それでも、初めてボールに触り、相手の間をすり抜けて一気に開けたフィールドを走る体験は多くの人を引きつけた。ラグビーは痛いし苦しいけれど、やっぱり楽しいものだと、ラグビー部自身がまた教わった。

 15人もの1年生を加えたラグビー部は数だけではなくて、質でもレベルを一つ上げている。

「人数やチームとしての段階もあって、今の3年生までは、僕がリードして練習を進めていました。秋、今回の新しい代の2年生たちには、『モー、オレじゃないよね』と伝えました。キャプテンも自分たちで決めた」

 合同が単独になり、苦難の年に多くの部員が集まるまでになり、勝利も手に入れた。これから彼らがしたいことはなんだろう。なんであっても、必ずまた壁にぶち当たる。それをどう乗り越えるかを見たい。

 目標はベスト16に決めた。1月10日の2回戦は、青山高校との対戦だ。2年連続で花園予選4強を遂げている都立の星だ。それがどうした。正則には、僕らには、戦える幸せがある。

 ほんの、数年前。

 部員1人の2年生と2人でくる日も、くる日も練習していた頃の宇田先生の気持ちは寂しいでも、ヤバい、でもない。たったひとりにさせてしまった申し訳なさと、この門の内側ではどうがんばっても人を増やしてあげられない自分への不甲斐なさ。それでも練習に来る生徒への感謝と、支えてくれる、校外の他チームへの感謝だった。

「今も続いている皆さんとの関係が、あの子たちを支えてくれました。いつでも、どんな状態でも受け入れてくれる心優しい皆さんが」(宇田先生)

 全国各地ではもう、始まっている次の花園へのチャレンジ。新人戦1回戦のその土のグラウンドは、どこかで、しっかりと東花園の青い芝につながっている。

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正則高校のメンバーは、中庭のような校庭を笑顔で走る(写真は2019年9月/撮影:BBM)
河川敷での練習。福岡さん、田村さん、二人のスポットコーチもチームの成長を後押しした(撮影:正則高校ラグビー部)
都立葛西工業高校で行われた東京都新人戦1回戦(撮影:正則高校ラグビー部)