表情に変化が少ない、ように映る。
日大ラグビー部2年の普久原琉は12月19日、東京の秩父宮ラグビー場で大学選手権準々決勝に出た。
ポジションは最後尾のFBだ。球を持てば防御の隙間を駆け抜けたり、正面からタックルを受けながら腕を背後へ通してパスを放ったりする。
「(過去に)バスケやってたんで、それが効いているというのもあります」
その懐の広さで、対する明大の田中澄憲監督に「逸材」と言わしめる。
「日大は強いチームと当たると、自分たちらしいプレーができていない感じがある。観客が多く、明大はそれに慣れていると思うんですけど、(大観衆にやや不慣れな自分たちも)いつも通り、平常心でやれたらなと」
戦前にこう語った通り、この日は昨季準優勝の強豪へ左足でのロングキック、防御へ仕掛けながらのパスといった「いつも通り」のパフォーマンスを繰り出す。最後は7-34と敗れて2季連続での8強入りに終わるも、存在感は示した。
「(今季は)ミーティングにも時間が割けて、やりたいことが統一できていた」
ここでシーズンが終わった日大では、複数の選手が涙を流した。
しかし普久原は、違った。
切れ長の目を濡らすことはなく、時折、ゴール裏の電光掲示板の向こうを眺めるようにして芝を後にした。
きっと下級生の普久原は来年以降も戦えるから、寂しさや悔しさが沸き上がることはなかったのではないか…。そんな見立てを覆すのが、指揮官の持つエピソードだ。
チームを率いる中野克己監督は一昨季、全国高校ラグビー大会の沖縄県予選決勝を視察した。その日コザ高の主将だった普久原は対する名護高に敗れ、2季連続の全国行きを逃した。何より、その日が高校ラグビー最後の試合となった。
中野監督が覚えているのは、コザ高から自軍へ加わる3年生2人の対照的な姿だ。
後に司令塔のSOで主力入りの饒平名悠斗は号泣も、普久原は飄々としていた。指揮官が不思議がったその時の心境を、当の本人はこう振り返る。
「いやぁ、どうすかね…。その試合は、勝てると思っていて、ずっと。(負けて)驚きが…。実感が湧かなかった。もちろん、悔しかったです。でもたぶん、泣かなかったっす。がまんしたっす」
今季の大学ラグビーシーンでは、取材機会が制限される。そのため明大戦の直後、普久原が秩父宮での感情について語る機会はなかった。いずれにせよ、人の心を顔つきだけで判断するのは乱暴かもしれない。
試合中は常に落ち着いた様子に映るが、自己分析はこうだ。
「緊張…。してます。してないように、見せてるだけです。いつも通りっぽく、してます」
普久原が話したのは明大戦の2日前。受け答えのたびに目を見開き、時折、笑みを浮かべていた。