きょう、いよいよ開幕する第100回全国高校大会。今年は記念大会のため12校の増枠があり、各県の2位校は敗者復活を期し新方式の「オータムブロックチャレンジ」に挑んだ。全国9ブロック、それぞれ出場は1校。2位チームが集まってぶつかり合うことから、各県が自県のレベルを競う側面もあったこの大会。ある公立高のチャレンジをリポート。みんなが目指したあの芝で、激闘が始まる。(協力:日立第一高校ラグビー部OB会)
11月21日9:00。普段と変わらない熊谷スポーツ文化公園熊谷ラグビー場。
オータムチャレンジトーナメント関東ブロック大会。花園出場をかけた1回戦の初戦、日立一対専大松戸は、完全無観客での異様な静けさの中、選手たちの声だけが響くグラウンドでキックオフのホイッスルが鳴った。
試合は開始3分で早くも動く。確実にパスを回し、フェーズを重ねる専大松戸に自陣ゴール前までボールを運ばれ、最後はFWが押し込んで先制トライ。立ち上がりから堅さの見られる日立一高フィフティーンはいきなり劣勢に立たされることとなった。
堅実なディフェンスからターンオーバーでカウンターを仕掛ける専大松戸はプランどおりに試合を進め前半で3トライをあげる。0-17で前半を折り返した。ハーフタイムで鈴木監督は、焦りの見える選手に笑いかける。「残り30分で自分たちのラグビーをやってこい!」
日立一高は、3年生が秋まで部活動を続けることは希で、夏には1、2年生に世代交代する部がほとんどだ。ラグビー部も例外ではなかった。しかし、ここ数年は全国大会県予選まで部活動を続け試合に出る3年生が出始めた。保護者に諭され、部活動を去る選手も少なくない。鈴木監督も、秋からは3年生の練習を平日は3日、土日はいずれかの1日とし、学習時間をこれまで以上に保障する措置をとって部活動を続ける3年生へ最大限の配慮をしてきた。監督の言葉にもう一度気持ちを入れ直す3年生。残り30分での巻き返しを図るため、志賀キャプテンを中心に円陣が組まれた。
「まずは、1トライ。後半は先に点を取る。」
開始1分。ハーフウェーライン付近からSO半澤がラインブレイク。一気にゴール前まで進んで相手FBと1対1になると、インゴールめがけてショートパントを蹴り込んだ。しかし楕円球は無情にもカバーリングに走る相手選手の前に跳ね返り、一気にカウンターを仕掛けられる。全員が前がかりで攻めていた直後のターンオーバー。後半も先制したのは専大松戸であった。
16分、相手陣22㍍付近からの連続攻撃で攻め込んだ日立一は絶好機を迎えるが、ゴールライン直前でのノックオン。あと1㍍が遠い。勝利へのプレッシャーなどではなく、相手の堅実なディフェンスがミスを誘発させていた。ラストチャンスであるのは、日立一高だけではない。オータムチャレンジトーナメントに参加したすべての学校がその思いで試合に臨んでいる。このゲームではディフェンス力とエリアマネジメントにおいて専大松戸が明らかに勝っていた。
ノーサイドを迎えた時のスコア0-29がそれを証明している。
関東ブロック参加校で唯一の県立学校である日立一高のオータムチャレンジはこうして幕を下ろした。
結局花園に行けないのなら、始めから夏前に引退すればよかったのか。最後まで部活を続けなければよかったのか? そんな問いは、試合後の3年生の表情を見れば愚問だと誰もがわかった。
チャンスをもう一度与えられてもなお、手が届かなかった花園。だから花園は聖地であり、高校生を熱くさせる場所なのだろう。
かつては日立一高も5度足を踏み入れ、他県の強豪校と熾烈な争いを繰り広げた。しかし、私立校の台頭により県内の勢力図が変わり始めると、部員数も減少の一途をたどり、一時期は、単独チームでの出場すらできないこともあった。勝てなくなると部員が減り、さらに勝てなくなる負の連鎖に苦しんでいた日立一高。
それでも、時代が令和に変わった年に関東大会出場を25年ぶり果たす。昨年度から2年連続県予選準優勝。部員も20名を超えるようになった。しかし県内には茗溪学園という大きな壁が立ち塞がり、その牙城を崩すことは容易ではない。そんな現状において、今回のオータムチャレンジは、選手たちにとって希望の光となった。
いつか、ライバルを倒して、あの芝を踏むんだ。
そう念じている全国の高校ラガーマンたちにも、勇気と希望を与える素晴らしい企画であったと確信する。
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