ラグビーリパブリック

【コラム】よいこのペナルティマネジメント

2020.12.24

2020年12月5日のアルゼンチンvsオーストラリアより(Getty Images)

 ペナルティマネジメント。ラグビーの選手やコーチがよく使う言葉だ。反則を取られないための働きかけを指す。

 相手に疑わしい動きがあったり、自分たちの取られた反則の背景を知りたくなったりした際、チームの主将が当日のレフリーに問いを投げかける。適宜その内容を仲間と共有し、順法精神を高める。

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 どの試合でもルールこそ変わらないが、その解釈方法は当日のレフリーによって異なる。自陣で反則したチームは相手にペナルティーゴールの機会やトライチャンスを与えやすくなるため、ペナルティマネジメントは必須の危機管理術だ。

 トップレベルのクラブは公式戦を前に当日の担当レフリーの癖や傾向を分析する。現在展開中の大学ラグビーシーンでも、優勝候補の一角とされるクラブのスタッフは選手へ「次のレフリーは○○さんです。『レフリー!』じゃなく、ちゃんと『○○さん』と呼ぶように」と通達しているのだと証言する。

 大学ラグビーでのペナルティマネジメントといえば、個人的にはグラウンド外の出来事が思い出される。

 今季の関東大学ラグビー対抗戦およびリーグ戦では、試合会場での取材が制限された。

 有料観客試合の後は、両軍の指揮官と主将を含めた選手2名という合計3名によるオンライン会見のみ。無観客試合では主催の関東ラグビー協会および大学側が監督や選手の談話を録音し、専用のドライブで共有する。当初は、無観客試合の取材は全面的にNGと通達されていた。軟化したのが最終形態だった。

 なおルール制定に先立ち、幹事社や専門誌への事前相談はなかったという。加えて、感染症対策への協力、主催団体が万全な感染症対策を施している点へ無理解なメディア関係者は、少なくとも当方の周辺では皆無だった。

 無観客試合をカバーした某日、会場と徒歩圏内にあるコンビニエンスストアの前でちょうど試合を終えたばかりだったチームのコーチと目が合う。初対面ではないこともあり先方から声をかけられる。こちらは咄嗟に、「ここで話しているのは不適切なようです」という旨をやや平易な言い回しで伝えた。

 実はこの日、試合後に泣いて悔しがる選手を近くで見ているところへなぜか運営側の1人がくぎを刺す風で話しかけてきており、こちらもよせばいいのに「現行のルールがなぜ周囲から受け入れられないかは理解されているか」との議題を持ちかけたばかりだった。その時の相手方は、よほど寒かったのかポケットに手を入れレギュレーションに沿った説明を繰り返していた。

 結局、件のコンビニエンスストアでは、「ここで話すと…」の申し出で当該のコーチに雰囲気を察していただき、時を改め、練習場で話を伺った。取材者の身から出た錆としてのペナルティマネジメントを、取材対象者に聡明に対処していただいたと言える。

 改めて自分と向き合えば、ふたつの観点で反省した。

 ひとつは、その折の空気に引きずられて返答内容を設定してしまっていたのではないかというもの。

 もうひとつは、試合後に取材対象者に声をかけられた自分がいついかなる時も「ここで話すと…」式で答えるとは限らないのではないかというものだ。

 実際、大会のレギュレーションがどう運用されるかは各会場の担当者によるところがあり、別日、別会場では、出場チームの監督が好意でフィジカルディスタンス順守の囲み取材を実施したケースもあった。その時はその時のペナルティマネジメントのもと、複数の記者に交じって当該の監督に質問をした。

 現代ラグビーにおいて、ペナルティマネジメントは必須項目と言われる。むしろ、その時々のレフリーと首尾よくやり取りができる主将は、その社会性が競技の枠を超えて称賛されうる。

 もっとも、このペナルティマネジメントという所作を現代人の言動に置き換えれば、誠意を持って人間関係を築こうとするさまにも、その時々の権力者の顔色をうかがい要領よく立ち回るさまにも映る。あの日の筆者は後者かもしれない。

 ラグビーは人生の学校と言われて久しい。ラグビーのどの要素をどう学び、どう自分の身に置き換えるのかが自分次第である点もまた、ラグビーは人生の学校と言われるゆえんなのだろう。ラグビーで得られる学びを正しく、本当の意味でラグビー界のために運用できる、そんな2021年を過ごします。

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