通称は「こうせん」。古くは工専、今は高専と書く。工業高等専門学校のことである。5年制。高校と大学が合わさっている。
中学卒業後、理系の専門分野を学ぶ。就職や進学もよいため、人気は高い。地区のトップ高校と偏差値もそん色がない。
高専にもラグビーマンたちはいる。
年明けの全国大会(全国高等専門学校大会、通称=高専大会)で年1回、覇を競う。
国立の奈良は今年度、3連覇に挑む。
学校は城下町だった大和郡山にある。
安土桃山時代、「大和大納言」と呼ばれた羽柴秀長が城や街を発展させた。温厚な秀長は天下人になる兄・秀吉を補佐する。今でも石垣や堀は残る。金魚の名産地でもある。
奈良は国立の仙台(名取キャンパス)、市立の神戸とともに、近年その強さから、「ご三家」と呼ばれている。
全国大会の優勝回数において、仙台は最多14(宮城工専時代を含む)、それに次ぐ10の神戸。奈良は3である。
優勝回数こそ少ないが、奈良は成長著しい。直近7回の全国大会での決勝進出は6。指導を施すのは46歳の監督・森弘暢だ。
「3連覇の力はあると思います」
11月14日には前哨戦となる57回目の近畿大会があった。奈良は神戸を45−12と圧倒し、優勝する。
森は奈良教育大でラグビーを始めた。最終的なポジションはCTBである。
「チームスポーツがしたくなりました」
郡山高では陸上部に籍を置き、ハードルを専門にした。
この高校の旧制中学時代、大西鐵之祐が学んでいる。母校・早大で4度に渡って監督を引き受け、1968年(昭和43)には日本代表を率い、ジュニア・オールブラックスを23−19で破った。勝たせる指導者だった。
森は学内の大学院に進み、体育学の修士となる。小学校に1年勤務した後、奈良に移る。着任は2000年の4月になる。
高専は大学に準ずるため、先生ではなく、教授と呼ばれる。森は准教授だ。
最初の6年は陸上の指導。その後、1965年に創部されたラグビーの4代目監督になった。部は今年、55周年だ。
森は遅く競技を始めたこともあって、その教え方は優しい。ミスに怒声を発しない。
「怒ると委縮して動けなくなります」
ラグビーの推薦入試はない。25人の部員と女子マネ5人は勉強をしに来ている。週末を除き、練習は放課後の2時間だけだ。
その内容は、相手をつけた試合形式を先に出し、パスなどの基礎を次に持ってくるなど、飽きさせない工夫がなされている。
グラウンドは土ながら、トラックは400メートル。その周囲に余地も多い。野球、サッカーと供用も常時、縦横70メートルほどの広さを使える。
森の熱心さは、近畿地区のU17代表の監督への道を開いたりもした。
「今の大学生を見させてもらいました」
早大FBの河瀬諒介や帝京大の副将でSOの北村将大(まさひろ)の名が挙がった。出身校は東海大仰星と御所実である。
奈良の学校創立は創部の1年前だ。現在の学科は5つ。機械、電気、電子制御、情報、物質化学。男女共学で、定員40人の各学科を1クラスずつ持ち、一学年に200人ほどが学ぶ。総人数は1000人ほどだ。
同じ敷地内には100人規模の寮があり、全国から進学は可能だ。ラグビー部の入寮者は2人。滋賀と兵庫の出身者である。
チームは今年、2人の5年生による共同主将制を敷いた。電気学科のPR小泉太護(だいご)と機械学科のFL板垣壮流(たける)である。森は説明する。
「違うタイプで資質を補おう、と思いました。小泉は自分でどんどんやっていくタイプ。板垣は周りが見えます」
この2人は経験者だ。その数が多いのも奈良の特長。25人中、実に17人にのぼる。
小泉は生駒少年ラグビースクール、板垣は郡山中で競技を始めた。寮生の1人、3年生WTBの大串蓮は強豪の芦屋ラグビースクール出身である。
県内には、高校ラグビーにおける二大巨頭がある。冬の全国優勝6回の天理と同準優勝4回の御所実だ。
奈良は勉強と全国優勝を同時に狙える。その部分も経験者の入学にプラスに働く。
楕円球を持ったことがなくとも、目立つ選手もいる。2年生LOの土田航大のサイズは192センチ、94キロ。今年8月、コロナの影響でオンラインになったTIDユースキャンプに参加した。「ビッグマン、ファーストマン」で通る、日本代表になる可能性を秘めた原石探しの合宿である。
コロナ禍は学校にも及ぶ。閉校は4か月近くに及んだ。その間、講義も練習もオンライン。7月末に全体練習は解禁されたが、高校の全国大会予選とかぶり、近畿大会前に練習試合は3つしか組めなかった。
その流れの中で、約10か月ぶりの公式戦にもかかわらず、神戸に圧勝できた。
「上級生が作ってきてくれた財産が残っていると思います」
森は持ち前のパスラグビーや持ち場を決めた動きができたことを口にする。
前回の公式戦は全国大会決勝。仙台に33−0と完封する。1月9日のことだった。
51回目の全国大会は、例年通り来年1月4日、神戸・ユニバー記念競技場で開幕する。
奈良は15年連続20回目の出場。全国から10校が集まるため、3つ勝てば、3連覇がなされる。その偉業はこれまで、北九州、仙台、神戸の3校しか成し得ていない。
高専の卒業時の選択肢は3つ。短大卒の肩書での就職、大学への3年時編入、大卒の資格を得る母校の専攻科進学である。
小泉と板垣はともに大阪府大への編入が決まっている。
ラグビーでも有終の美を飾りたい。