全ての大学ラグビーマンの気持ちを代弁しているようだった。
「春シーズンも、夏もなくなって、自分たちよりも早く動き出していたチームもあって、焦りもありました。グラウンドに出られてもボールの使えない時期があり、いざボールを使えた時にもうまく行かない部分があり、掲げていた目標へのプレッシャーもありました」
見えないウイルスと戦ってきた2020年を静かに振り返るのは、綿引寛人。関東大学リーグ戦1部に加盟する、中大ラグビー部の4年生だ。部ではCTBのレギュラーを張るかたわら、約40名という全ての部員が住む東京都八王子市内の寮で食堂長を務める。
チームの最上級生は4月から約2か月間の一時解散を経て、6月上旬に帰寮した。6月中旬以降に下級生が帰ってくるよりも前に、感染防止のための自作の新ルールをシミュレーション。外出できる場所や散歩の時間などに制限をかけ、練習後に一度に風呂へ入れる人数も最少化した。
自分たちで作ったルールを自分たちが守ること、ましてや、他人に守らせることがどれだけ大変だったか…。
「大変だったからこそ、選手としても、人としても成長できた部分でもありました。いままでと違った生活をするなかで、もしかしたらいままでよりも、寮の全員との団結力が作れたと思います。特別な生活になった。マイナス面は多かったですが、どう上を向いてプラス面を生み出すか…と思ってやってきたので、結果としてはいい1年に、最後、できるように…。よかった、と締めくくれるようにやっていきたいです」
話をしたのは11月20日。八王子市内での人工芝グラウンドでの練習を終えた直後のことだ。
中大は22日に東京・江戸川区陸上競技場で専大から21-10と今季初勝利も、それまでは今季のリーグ戦1部で唯一の未勝利チームだった。
綿引は、悲願の初白星に飢えていた。
「(今季は)自分たちがいい流れを作れて優位に立った時に、詰めの甘さが出て勝ち切れない…というところがあった。4年生を中心に死に物狂いで勝ちを獲りに行かなきゃいけない。シンプルに、ラグビーをやるからには勝ちたい。相手に勝たないと楽しいものも楽しくなくなるので…。チームの雰囲気はいい。時間がないからこそ、前を向いてやっていきたい」
身長174センチ、体重89キロ。身体をぶつけ合うCTBの位置にあっては決して大柄ではないが、細やかな工夫でチャンスを作り出す。
人と人との間へ仕掛けて周囲の空間にパスを放ったり、鋭い角度でスペースへ駆け込んで球をもらったり。鋭い出足と運動量に活路を見出す中大にあって、首脳陣に信頼され続けてきた。
「相手のスペースを突くという部分に関しては、自信を持ってやってきた。今季は春シーズンの試合がないなか自分の強みが(出せるか)不安でしたが、日大との初戦(10月4日/東京・日大グラウンド)でカットインからゲインできた。結果としては(28-33で)負けてしまったけど、今季に向けて自信がついた部分はありました。チームを前に進めるには自分が身体を張らなきゃいけない。自分の得意なプレーでゲインしようとは、常に思っています」
日程の縮小化を余儀なくされたリーグ戦は、12月5日に各地で最終節をおこなう。
3連覇を目指す東海大は、新型コロナウイルス感染者発生の影響で日大との最終戦を辞退。不戦敗となる。
下部との入れ替え戦は実施されない。開幕前の申し合わせ事項に、「(略)総当たり戦試合を公式戦とみなし、各グループとそれに対応する下部リーグも含めて、全試合実施(不戦勝・不戦敗含まない)した場合、入替戦を開催、トーナメント方式になった場合、入替戦は開催しない」とあったからだ。
つまり、すでに大学選手権へ進む上位3チーム以外はそのままシーズンを終える。中大も然りだ。
1勝1分4敗で目下8チーム中5位。埼玉・熊谷ラグビー場での関東学院大戦は当初、それまで2季連続で出ていた入替戦の回避をかけた80分となる見込みだった。
もちろんチームは、敗戦によって起こる悲劇がなくても自主的に勝利を目指すだろう。綿引はこうだ。
「個人としても出し切らないと。それに、自分たちが当初掲げた目標(大学選手権出場)は達成できないにせよ、全力で勝ちを獲りに行くことで、後輩に中大らしさを見せてあげられる」
卒業後は一般就職。年代別トップレベルの環境で競技を続けるのは今季限りだ。日立ラグビースクールへ通い始めた小学1年時から約16年にわたる楕円球人生に、ひと区切りをつける。