ラグビーリパブリック

流経大・松田一真は「嘘」をつかない。優勝の可能性は最後まで残る。

2020.12.04

11月21日の東海大戦でボールを手に力強く突進する流経大の松田一真(撮影:松本かおり)


 優勝の可能性を残している。進化した手応えはある。関東大学リーグ戦1部に加盟する流経大の松田一真副将は、最上級生の充実ぶりを語った。

「今年のチームがうまく回っているのは坂本(侑翼)、津嘉山(廉人)、小川(寛大)、パフォーマンスで魅せてくれるヴィリアメ(・タカヤワ)など、4年生が役割を果たしているから。カオスな状況はラグビーにはある。そこで4年生が黙っちゃうのではなく、前に出ないと。4年生の責任感が大事だと思います」

■シーズンが深まりチーム力を高めている流経大

 話をしたのは11月19日。東京・秩父宮ラグビー場での東海大戦を2日後に控えていた。

 全勝対決だったこの一戦は結局、38-55で落としたが、爆発力は示した。後半5分までに12-38と大きく差をつけられながらも、勢いのある連続攻撃で同19分には38-38と追い付いていた。

 FLの坂本主将は「自分たちのボールを持てばトライまでできる自信がある。セットプレー、ブレイクダウンのひとつひとつを修正して、自分たちのアタックをしたいです」と前を向いていた。

 ただし今季のチームの特徴を如実に表していたのは、坂本が第一声でこう述べていたことだ。

「前半は東海大のアタックを受けてしまいました。前半から自分たちのラグビーをしようとしましたが、自分たちの形を出せませんでした。後半はいい形で自分たちのやりたいことをできたところもありましたが、ミスから相手にペースを取り戻されてしまいました」

 前向きに振り返る点と反省すべき点を明確化する傾向が、いまの流経大にはあった。実は19日にも、茨城県内の本拠地グラウンドでらしさをにじませる出来事があった。

 この午後、流経大の出場メンバーは東海大になり切った控え組に圧をかけられて防御のミスを連発。練習後の円陣では、松田がその点を見逃さなかった。

 池英基ヘッドコーチの証言。

「きょうの練習自体は(動きが)硬く、そんなにいい方ではなかったですが、チームが危機感、緊張感を持って真剣にやっている点はよかった。あさってはかなりいい試合をすると思います。あまりいい練習ができなかったことは、Aチーム(主力)がわかっている。…先ほどのチームトークでは、私がいま話したようなことを一真が伝えていました」

 内山達二監督からも「厳しい目線で事実と向き合う」と評される。ただし当の本人は「津嘉山のほうが、(指摘を)言います」とほほ笑む。同級生の右PRで元20歳以下日本代表の津嘉山が身体と言葉で周りを引っ張っているのを踏まえながら、誠実に応じる。

「…でも、(自身も)日本一になるためには、嘘はつきたくない」

 強調するのは、やはり今季の最上級生の奮闘ぶりだ。学年を問わず20名超のリーダーを置くチームにあって、「最終的には、4年生がチームを引っ張るものなのだ」と感じるという。

「試合の準備や備品の管理もすべて学生でおこなっている。それを主将、副将だけで見渡すのは難しいなか、リーダーとなった4年生にはフィールド以外の部分でも助けられています。フィールド内でも、(試合の)メンバーに入っていなくてもBチームの盛り上げなどで下から押し上げてくれている4年生もいる。リーダーが多い体制は、いいと思います」

 身長174センチ、体重105キロでスクラム最前列のHOに入る。素早い位置取りからの繊細なパス、高角度でのラン、タックルを長所とする。適切なポジショニングの背景について問われれば、自らの気質を語る。

「すごく負けず嫌いで。小さいけど相手に当たり負けたくない、行かれ(攻められ)たくない。それを意識していたら、そういう立ち位置になったのかなと思います」

 ラグビーは3歳で始めた。流経大入りを考えたのは、常翔学園高の野上友一監督に勧められたからだ。内山監督の訪問を受けたり、改めて同部の試合を見返したりするうち、ボールを動かすチーム哲学に自分がフィットするのではと感じた。

「自分はサイズも小さいんで、個人のスキルを活かしたプレーをしていました。うまくなりたいと思ったら、ここ(流経大)だった」

中央は流経大キャプテンの坂本侑翼(撮影:松本かおり)

 ただしこの4年間で、理想と現実のギャップを乗り越えたことはあった。入学前にリーグ戦での優勝経験もあるクラブをシンプルに「強い」と見ていたが、いざ内部に入れば結果を出すのにさまざまなハードルを乗り越えていく必要があると感じた。

「すごく努力をしました。それでも勝てない現実であったり、高校まではなかった留学生とのコミュニケーションであったり…」

 松田の入学以降、リーグ戦での成績は3季連続で3位。昨季は一昨季5位の日大に28-34で屈した。松田は当時の4年生が「日大に敗れたのは4年生の責任」といった趣旨で話しているのを聞いたようで、「いまならその意味がよくわかる」とのことだ。

 坂本主将によれば、積賢佑前主将(現クボタ)率いる昨季のチームはシーズン終盤から練習後の選手間ミーティングを導入。身に付けた技能や翌日の課題を共有し、底力を醸成。大学選手権3回戦では、2017年度まで同9連覇の帝京大を破った。

 坂本はこの風習を「いい文化」として今季のチームでも実施。松田もその間、忌憚なく意見を述べた。開幕前の筑波大との練習試合で敗れた際にはこうだ。

「チームが壊れることが怖くて言わないのはなしにしよう」

 結果、リーグ戦では開幕から5連勝。前年度に敗れた日大にも、11月14日に40-14で快勝した。特に21-7で迎えた後半開始早々、敵陣深い位置で相手ボールスクラムをターンオーバー。

 スクラムは向こうの長所だったが、最前列中央の松田は「真っ向勝負、小細工なしでぶつかって勝つことができた」。それまでチームの課題が「後半の最初の20分間」のパフォーマンスだったとあり、鬼門の時間にいいパックを組めたことに満足できた。

「ヒット(組み合う瞬間)とドライブ(組み合った後)に分けて(意識して)やっているんですけど、ヒットの意識は浸透していて、バックファイブ(後列5名)もその意識でやっている」

 ここまで唯一の全勝だった東海大は、同じ12月5日の秩父宮でのリーグ最終節を辞退した。部内で新型コロナウイルスの感染者が増加。対する日大に不戦敗という形となった。

 勝利で「4」を得られる勝ち点制度が敷かれるなか、流経大は東海大を勝ち点「4」の差で追う。勝てば流経大、東海大、日大の三つ巴となり、12月3日に追加されたルールのもと「勝ち点が並んだチーム間の試合を除いた、残りの試合における総得失点差」で順位が分かれる。

 大東大との試合では大量得点差での勝利が期待されるが、当事者は勝利以上の価値を追い求めている延長で目標達成を狙うだろう。松田は言う。
 
「一戦、一戦、満足しないで、チームで戦い抜く。現時点で日本一かと言われたら違う。レベルアップしないと。ここからは、強い相手しかいないので」

シーズンが深まりチーム力を高めている流経大(撮影:松本かおり)