「ワールドカップ会場でプレーできるなんて夢のよう」
「釜石、東北の復興を後押ししたい」
ラグビーの魅力やチームを超えた愉快な仲間。参加者が、その次に口にしたのはこの二つだった。
11月28日から2日間、 岩手県の釜石鵜住居復興スタジアムで「ワールドマスターズラグビー釜石大会 フレンドリーマッチ」が開催された。参加したのは全国から集められた9チーム。40歳以上、60歳未満のマスターズ選手たちだ。
釜石鵜住居復興スタジアムにて。国内9チームのマスターズ全員写真
チームは「惑」などのクラブチーム、企業チーム、そして高校OBによる即興メンバーと多彩。競技から宿泊までコロナウイルス感染拡大防止策を尽くしつつ行われた。国土交通省、観光庁のガイドラインに添い、スポーツツーリズムの実証事業として施行されたイベントでもある(主催=釜石ラグビーツーリズム推進協議会)。来年以降は、その名の通り、世界のマスターズチームに参加を呼びかけることになっている。
◆大会第1日目(11月28日)試合結果
日本航空 17-5 キリンビール Heinekenn
茗溪学園高OB 30-0 東京マスターズ
秋田工高OB 21-7 天理高OB
45年会 12-5 日本航空
惑惑クラブ 28-7 キリンビールHeinekenn
茗溪学園高OB 21-0 天理高OB
惑惑クラブ 19-0 東京マスターズ
45年会 20-0 天理高OB
秋田工高OB 0-0 茗溪学園高OB
日本航空 14-7 惑惑クラブ
45年会 22-0 キリンビールHeinekenn
釜石クラブ 14-7 東京マスターズ
*試合は15分または10分ストレート
マスターズとあって試合のパワーは全盛期のそれではないものの、それぞれの試合に見所があった。会場が目を引きつけられたカードの一つは秋田工高OB vs天理高OB。花園で燦然と輝くあの伝統のジャージーが、まぶしい。そして試合中の動きにも目を奪われた。
OBが定期的にプレーする機会がないという秋田工業は今回、使われなくなった現役のジャージーを借りて参加した。高校ラグビー界、最高峰の名門。紺と白の段柄、白パンツに紺ソックスは「精魂尽くして颯爽たり」の同部の看板フレーズを体現する凛々しさがある。第67回大会全国優勝時のLO、高杉司さんは「このジャージーは特別。天理さんという相手も特別です」と、同門の後輩たちとのプレーを楽しんだ(高杉さんは新日鐵釜石OBでもあり、この日、釜石クラブのメンバーとしてもプレー)。
対する天理は純白だ。OB会の了承をとり、現役と同じデザインのジャージーを作って参戦した14名(1名ぶんは助っ人を借りて)は、こちらも天理魂を鵜住居の芝に刻みつけた。マイボール・キックオフの、ハーフウェイラインを超える瞬間のスピード。ここぞの場面では誰よりも低く刺さるタックル。アスリートと仕事人の調和。マスターズだけど(失礼)、そのチームは天理だった。
ある天理OBのお一人が教えてくださった。
「今はもう70歳を過ぎた先輩たちが、現役だった頃に」
ある日、土砂降りの雨が降った。今日はさすがに外で練習はできないと部員が軽い気持ちでいると、当時の監督が静かに言った。
「秋田は、晴れとる」
花園の決勝で敗れたこともあるライバルとの熱い関係を示す、天理サイドのエピソードだ。
体をぶつけ、角突き合わせる男たちには、個々にも様々なストーリーがある。試合後は、どのカードもなごやかにエールを交換し、肩を抱き合って記念写真に収まった。
夢中で戦い、友情を温めて。東北に想いを寄せる時間をみんなでともにした。