2020年、奈良県に中学生を対象としたラグビークラブが産声を上げた。
「奈良北ジュニアラグビークラブ」だ。
毎週末、奈良市内の公共グラウンドに元気な声を響かせている。
ヘッドコーチはNTTドコモで7季プレーした山﨑甲將(やまざき・こうすけ)さん。北海道留萌市に育った元トップリーガーは2男1女の父親。長男(中1)、次男(小4)もラグビーに熱中している。
約10人いるコーチ陣で共有しているクラブ方針がある。
「『ラグビーを通じて、子供の成長、成功、幸せを達成できるようにサポートしよう』と話しています。またプレー面では、基本スキルと安全面を特に重視しています。子供たちが『行ってきます!』と出掛けて、『ただいま!』と元気に家に帰るまでが仕事です」(山﨑さん)
クラブ誕生のきっかけは切実な問題意識だった。
公文国際学園−法政大学−NTTドコモでプレーした山﨑さんは、30歳で現役引退後、社業のかたわら奈良市のラグビースクール『キッズラグビーとりみ』で子供たちを指導。2015年、2019年のラグビーW杯で確実に小学生の競技人口が増えた実感があった。
「今は1学年毎に平均20人はいます。キッズラグビーとりみ全体としては140人を超える大所帯です」(山﨑さん)
しかしラグビーに魅了された彼らを受け止める中学年代のチームが少ない。
芽生えた問題意識は、中学に上がる子供たちの受け皿が少ないことだった。
「奈良市内の公立中学にラグビー部が一つもないため、『キッズラグビーとりみ』でラグビーを始めた子供達が中学でラグビーを続けるには、ラグビー部のある私立中学を受験するか、天理市で活動している奈良県スクール選抜への参加となります。私立中学や奈良県スクール選抜でラグビーを続け、高校、大学と活躍しているОBも多いのも事実です」
「ただ、奈良市近隣で中学生が参加できるラグビーチームがないこともあって、ラグビーは小学校まで、中学から別の競技をやります、という子供たちも多いです。近隣に受け皿があればこの子たちはラグビーを続けてくれるのではないか、中学からラグビーを始めたい子供達も多いのではないかと、ずっとモヤモヤしていました」(山﨑さん)
誰か奈良市内に中学生チームを創ってくれないかな。きっと誰かが立ち上げてくれるだろう——山?さんはNTTドコモの関西支社に勤めながら、長年そんな思いを抱えて悶々としていた。
しかし2019年、ついに一念発起した。もう待てない。自分達でやろう。
立ち上げにあたっては、仲間を集め、グラウンドの目処をつけ、貴重な受け皿である奈良県スクール選抜(天理市)の種村和也監督に助言を仰ぐなどして準備した。
そして2020年、キッズラグビーとりみの中学部として「奈良北ジュニアラグビークラブ」は発足した。
クラブ名は「とりみ」にこだわらず「奈良北」にした。
『キッズラグビーとりみ』の出身者だけでなく、奈良県北部の近隣スクールでラグビーを始め「中学でもラグビーを続けたい」「中学からラグビーを始めてみたい」という小学生の受け皿になりたい、という強い思いからだ。
コロナ禍で4月スタートの開校予定は6月にずれ込んだが、競技歴がない子も参加し、中学1年生が6人も入ってくれた。彼らが奈良北ジュニアラグビークラブの1期生だ。
「中学生の成長はすごいですよ。すぐ身体も大きくなるし上手くなる。僕らも『最高!』と言いながら楽しんでいます。高校、大学、社会人とラグビーを続けてほしいので、彼らにはとにかく『ラグビーは楽しいな』と思ってもらえれば」(山﨑さん)
予想外の門出だったけれど、子供たちの成長、笑顔に励まされている。クラブを始めて、本当に良かった。