昨季まで3季連続で大学選手権決勝に進んでいる明大ラグビー部が、勝負の季節を迎えている。
10月4日開幕の関東大学対抗戦Aでは、11月1日の慶大戦で12-13と今季初黒星を喫し、続く7日の日体大戦は新型コロナウイルス感染症の影響で不戦勝扱いとなっていた。敗戦から得た課題を克服したと示す機会を突如、失った格好だ。
久々の実戦機会は11月22日、東京・秩父宮ラグビー場で迎える。2017年度まで全国V9の帝京大とぶつかる。今季の対抗戦で1敗同士の対戦で、明大にとっては、対抗戦2連覇へ望みをつなぐ一戦でもある。
就任3季目の田中澄憲監督らが揃って示すのは、「ここからは4年生(が浮沈の鍵を握る)」という態度。本拠地の東京・八幡山グラウンドでの練習が終わると、最上級生が率先して道具やポールのカバーを片付けている。
トレーニングでのパフォーマンスで決まる試合の出場メンバーでも4年生の顔ぶれが目立つようになった。慶大戦時が7名だったのに対し、帝京大戦では10名が並ぶ。
控えSHの背番号21を得たのは、やはり4年生の梅川太我。今季初のメンバー入りだ。
「自分のプレーに集中し、周りを活かすことを考えてやっています」
今季は他の役職者とともに、チームを作るリーダーの1人となった。過去3年間の足跡が認められてか、田中監督に任命された。
2年ぶりの大学日本一に向け走り出した矢先に一時解散なども余儀なくされたが、日々のリーダー陣のミーティングでは当時いた控えチーム格の「ルビコン」の状況を逐一、報告する。
その頃は、選手同士でコロナ対策を施しながら自主練習のメニューを考えていた時期だった。1年時から主力のNO8、箸本龍雅主将は、再始動する7月中旬までにこう述懐していた。
「下級生の声を聞いてくれるリーダーがいるんです。梅川太我という同期の奴なんですけど、例えば『皆、グラウンドでの3~4人くらいでハンドリング練習をやりたがっている』と伝えてくれるのを聞いて、僕らで『少しなら…』とルール作り(に反映させた)」
本人は嬉々として応じる。
「チームをどうしていくかを常に考えながらミーティングを重ねることで、うまくいくことが増えた。下のチームの選手は、すごく頑張っているんです。いま、上のチームと下のチームがお互いを尊敬し合う集団になってきていると思います」
島根・石見智翠館高から入学。身長164センチ、体重66キロの身体に内包するのは負けん気と元気。果敢なタックルとサイドアタックが際立つ。
もっとも大学生活を振り返ると、「全然、うまくいかないことの方が多くて」。明大のSHのおもなレギュラーと言えば、一昨季までは主将も務めた福田健太、昨季以降は現3年の飯沼蓮。梅川は2年時の関東大学春季大会で計2試合、リザーブ入りしたものの、秋、冬の公式戦では一度もメンバー入りを果たせなかった。
特に下級生の頃は、入学年度にヘッドコーチとして参加の田中現監督のもと試行錯誤の連続。現役時代にSHだった現指揮官にいいところを見せようと強引な仕掛けを披露も、だめを出されることは一度や二度ではなかった。
「最初は澄さんへの対抗心というか、『見返したんねん』というか、そういう気持ちが強かった。いま思えば、自分勝手でした。競う相手を間違えていた」
その「間違えていた」という方向性を改められたのは、上級生になってからか。2018年に就任の田中監督からは、折に触れ「チームを動かす」というSHの本来の役割について説かれていたそうだ。
自我をむき出しに暴れ回る代わりに、周囲に適切な位置取りやプレー選択を促しながら球をさばく。かようなマイナーチェンジを心掛けた結果、「厳しくて、優しい」という田中監督からリーダーの重責を託されたのだった。
自分を高めるために必要なことは、自分以外のために頑張ることだった。
「周りやチームを動かすことが自分のためになり、チームのためになると思って。いろいろいるライバルの選手を気にせず、自分がチームにできることを考える。それが結果についてくるんだとわかって、結果、徐々に調子も上がってきています」
自身が出ていない慶大戦からは、「相手の勝ちたいスピリットを学ばせてもらった」。帝京大戦で投入されたら、誰よりもしゃべり、走り回り、仲間の士気を上げたい。「全員が(パスをもらう)オプションになることで、スペースが空く。全員でアタックする」と、ボールを持たない時の動きの質にも気を付けたい。
「僕は、うまいプレーヤーじゃなくて。でも、チームにエナジーを与える。士気を上げる。誰よりも声を出すことを考えてやっています」
大舞台の重要な局面で、「うまくいかない」季節を乗り越えた4年生が胆力を示す。