イングランド代表指揮官のエディー・ジョーンズがこれから指導したいチームは。
「オールブラックス!」
少年と見られるファンの質問へ応じる形で、世界最強と謳われてきたニュージーランド代表の名を挙げた。自身は昨秋のワールドカップ(W杯)日本大会の準決勝で、大会3連覇を目指していた同代表を見事に下している。
話をしたのは11月8日。三菱地所が動かす「丸の内15丁目PROJECT.」のオンライントークイベント『オンライントークラグビー世界大会2020~ONE TEAM FES』に登壇した。ファンとゲストとの直接的な対話を引き出す司会の山田章仁は慶大時代からジョーンズと親交があり、ジョーンズ体制が敷かれていた日本代表でも2012年秋からプレー。2015年にはW杯イングランド大会をともに戦っている。
イベント中、コーチの選手との接し方に話題が及べば「実は山田選手にも厳しいお話をしたのを覚えている」とジョーンズ。自身がサントリーの監督から日本代表のヘッドコーチに転じる際、都内のカフェに山田を呼び出して華美な服装や髪型、当時のパフォーマンスについて叱責した逸話は広く伝わる。
山田が「泣きそうになりながら表参道を歩いた夜は忘れられません」と笑うなか、ジョーンズはこうも続けた。
「もっといい選手になって欲しかったと思っていたからです。当時は受け入れられなかっただろうけど、結果、素晴らしい選手になってくれた。皆さん、2015年のサモア代表戦を覚えていますか。その試合で山田が決めたトライ(ゴール前で身体を回転させて相手をかわしてフィニッシュ。「忍者トライ」と騒がれた)は、世界のどの選手もできなかった。今回の視聴者にはコーチをされる方もおられるかもしれない。コーチにとって、選手との会話は大事になります。選手の感情をどう揺さぶるかが鍵になる」
話が盛り上がるなか、サプライズゲストも質問を投げかけた。昨年のW杯日本大会でも日本代表としてプレーした田中史朗だ。
「やんちゃで言うことを聞かなかった選手は誰ですか」
ジョーンズは「フミ」と即答。日本人初のスーパーラグビープレーヤーの田中は、ジョーンズの率いた日本代表で激しく意見具申を重ねたことで知られる。
田中のファンだという女性の問いに応じる形で、ジョーンズはこうも述べた。
「子どもたちがたくさんいらっしゃるので多くは語れないが、フミはタフなチームマンです。心が強く、自分の意見を持っている。一生懸命、練習をしていた。少し飲み過ぎたところはあったけど、本当に素晴らしい選手でした」
指導者として挑んだW杯での通算戦績を21勝3敗1分とし、日本代表を率いたイングランド大会以外はすべて決勝戦へ進んでいるジョーンズ。常々、明確なメッセージを示す。この日もこの調子だ。
選手として視野を広げるには。
「素早くセットすることで重要なヒントが見えるようになる。10番(SO)なら常にバックスペースを見てスペースがあるか、敵のラインはどうなっているか、味方のサポートがどこにいるか…。SHなら到達するラックの両サイドのスペースがどうなっているか…。WTBならバックフィールドがどうなっているか、目の前に(スピードの差で攻略しやすそうな)タイトFWがいるか…。自分のポジションで何(を見るの)が重要かを理解して、(グラウンドで)何を見るべきかというチェックリストを合計5つくらいは頭のなかで持っておいた方がいい」
マネジメントとは何か。
「まずは夢を見ること。最終的なゴールは何かというターゲットを定め、プランを立てる。どうやったらチームにインスピレーションを与えられるか。そのためにはご自身が学び続け、変わり続けなければいけない。また、自分の強みと弱みが何かを把握することで、それ(弱み)を補う人を周りに置く。そうして、チームを強化する。まとめると、どこに行きたいかの目標を定め、計画を立て、周りをうまく活用し、チームを作るんです」
アマチュア選手の指導者だという男性からは、成長したいと語る教え子に「フィジカル強化は必須」と訴えるも信じてもらえない、との悩みを明かされた。向こうの顔や事情を完全に把握できないとあって「難しい質問です」としつつ、問題解決のヒントを提示するのである。
「その選手がスキルを高めたいならキャッチ&パスのトレーニングにスプリントメニューを含み込んだり、ブレイクダウンの練習のなかで自重のトレーニングができるようにしたり、彼が必要と思っていないことを彼のスキル強化メニューに付け加えていく。私たちも、選手のモチベーションアップには試行錯誤している。イングランド代表にはNO8のビリー・ヴニポラがいます。彼は体重が約130キロあり、本当に食べるのが大好きです。彼は毎朝6時に起きてボクシングをやっています。彼はそのボクシングが好きではないのですが、『それをすれば何でも食べていい』と伝えることで同意してもらっています」
イングランド代表のオーウェン・ファレル主将のよさを語る時も、「代表選手を選ぶ時は必ずフィジカル、スキル、スピードなどどこかの領域でワールドクラスのポテンシャルがあるかどうかを見極めています。そのなかで、ファレルはいままでにあったことがないくらいの負けず嫌いです。フミと性格が似ています。2人ともタフ。そういう選手は必ずチームの助けになると私は見ています」。簡潔かつ具体的に述べる。
イベントのチャットにも返答の明確さを称えるコメントが重なるなか、「若い時は失敗を恐れずにいろんなことを試されたらどうでしょうか。そして、得意なことがわかったらそれをやり続ける」と若者へのエールも送った。