国内トップリーグのサントリーでは、国際的選手の海外挑戦と電撃加入が相次いだ。
日本代表でWTB、FBを務める松島幸太朗は昨季限りでフランス・トップ14のクレルモンへ移籍。2021年1月からの新シーズンへ向けては、ニュージーランド代表のSO、FBに入るボーデン・バレットが入団した。
いずれもワールドカップに2大会連続で出場中のビッグネームが入れ替わった状況下。「楽しみな気持ちです」と静かに意気込むのは、2013年度に入部の塚本健太。松島やバレットと同じく、FBに軸足を置く。
身長177センチ、体重85キロのランナーは、厳しい競争に武者震いする。
「(松島が抜けたことで)個人的にはチャンスもあります。一方、すごい外国人選手が来るのでそこへのチャレンジがあり、勉強もできると思います。個人的にはすごくいいシーズンになるんじゃないかと」
6節で不成立となった2020年1月からのトップリーグで、出番を得たのは1回のみだった。2018年もレギュラーシーズンとプレーオフを含め計10試合中3試合の出場に終わっており、「何かを変えたかった」。ここで注力したのが、「ZUU」というセッションだ。
ZUUとは動物の動きをヒントに考案された全身運動。当時ヘッドS&Cコーチだった若井正樹S&Cコーチが、2019年のオーストラリア留学時に出会って採り入れた。ウェイト器具を使わず全身に負荷をかけ、低く強い姿勢や転んでもすぐに起き上がる資質を磨く。
もともとタックルの技術などを改善したがっていた塚本は、このZUUに課題解決のヒントを見出す。今年のリーグ戦中断前の練習メニューへ組み込んだうえ、春先の自粛生活後には若井S&Cコーチ主催の早朝トレーニングにも参加。リモート主体の社業を始めるよりも前に、オーストラリア発のセッションへオンラインで挑んだ。心身をいじめ抜いた。
「(重量を挙げる)ウェイトの数値には自信を持っていて、それを(より)プレーにつなげられればと思って取り組んだのが始まりです。自分は、メンタル面でむらがあり、タックルの時に頭が下がる、踏み込めないという課題がありました。若井さんのトレーニング(ZUU)は、嫌なことにチャレンジすることでメンタルのところ(改善への期待)もある。低いタックル(に近い姿勢)、動き続けることもメニューに組み込まれている。(いまの自分に)ちょうどいい」
30歳の誕生日を迎えたばかりの8月中旬には、出身地の奈良へ帰省した。地元へ滞在していた最中に聞いたのが、出身の天理大ラグビー部での新型コロナウイルス クラスター発生の報せだった。ちょうど母校で身体を動かそうと思っていた矢先の出来事には「ショック」を受けたが、活動を再開させた後輩にはこう期待する。
「周りに言われてへこんだりするというチームじゃない。立ち直ってくれるだろうという思いはありました」
逆境にめげずにたくましく生きるのは、自分も同じだ。「ZUU」により内なる成長を実感しているからか、静かにこう言った。
「最初は30歳くらいまで(現役で)できたらいいなとは思っていたんですけど、いま30歳になって、まだまだできるなというの(感覚)はあります」
年度が変わるごとに「一年一年、最後の(シーズンかもしれないという)気持ち」と覚悟し始め、かなりの時間を過ごしてきた。人員が大きく入れ替わったこのタイミングを、ブレイクと進化の絶好機と捉える。