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【コラム】慶應13-12明治。タックルは戦術と意欲と鍛錬の結晶

2020.11.04

11月1日の慶應vs明治戦。慶應副将・三木亮弥のタックル(撮影:松本かおり)

 おそらくノータイム、最後のプレー。

 慶應がPKを決めてスコアは10-12から13-12になり、慶應大学が明治大学を倒した。それまでキックでイージーなミスを繰り返していたルーキー山田響が不敵な表情で、イージーではない状況のキックを決めて逆転。飛び上がって喜ぶ選手たちの表情を見てあらためて、今季の大学レースにおける慶應の伸びしろを感じさせられた。

「タックルもよかったと思いますが、組織ディフェンスがよくできた試合でした」

 晴れやかな顔の栗原徹監督。試合は好タックルの連続だった。

 WTB佐々木隼、CTB三木亮弥、FL山本凱、LO北村裕輝…。スタンドを沸かせる「一発」を放った選手だけを挙げても片手では足りない。

 一つの目を引くタックルに、味方が呼応して次のビッグヒットを打ち込む。そんな場面も2度、3度と見ることができた。

 前半終了前の慶應ディフェンスのシーン、HO原田衛の一撃から、CTB三木が思い切って加速し、明治のアタックライン深くで突き刺さったタックルもその一つ。慶應3-7明治で折り返したゲームの後半をより興味深くさせる場面だった。

 慶應のディフェンスがそこまで覚悟を持って前に出られるのは戦術的な意思統一がはっきりしていたからだろう。「ここは出る」「ここは出ない」の判断基準が整理されていた。例えば中盤地域の狭い方のサイド、明治の後ろのラインに角度のあるパスが出た瞬間に慶應が襲いかかるシーンは圧巻だった。明治は後半も自陣からボールを持って攻めるなど、この日の慶應の得意な局面を避けず、自らの戦術を貫いた。

 共通理解があるチームのディフェンスには、個々の選手が走る「線路」が見える。互いのやるべきことが明確だから、選手一人ひとりの懸命さがそのまま好タックルといった結果に結びつく。

 ただやはり、その責任をまっとうできる個々のタックルの技能には見応えがあった。

 CTB三木、WTB佐々木の「上がる」と判断してからの加速は真似をしたくてもなかなか真似できなさそう。体の強さ、打撃の重さなど、1年や2年のトレーニングではきっと身につかないものもある。その中で虎柄ジャージーのタックルに共通して見えたのは、体を当ててからのドライブだ。

 相手にコンタクトしたあと、タックラーの脚が次々と前に向かう。浴びせ倒すような場面もあった。右左右と両足を交互に継げるのは、体の正面が、相手に正対したまんまの体勢が保てているからだ。相手の(ひざやスパイクではなく)背面を手でつかめる姿勢、足を掻くこと。京都成章、慶應高校、桐蔭学園に修猷館、彼らの幼少からの出身チームのどこで、どんな意識づけで獲得されたか興味深いが、いくつかの共通点がタックルで発揮されていた。

 春、夏がスキップされてしまった2020年の大学シーズン、慶應は最も多くの時間を全体練習に注ぎ込めたチームの一つだ。昨年度対抗戦順位は6位相当。4敗を喫して大学選手権には出場できなかった。

「その分、12月に練習を再開しました」と相部開哉(あいべかいと)主将。

「昨年、出られなかった分、今年のチームにとっては練習の時間は長くなった。春前になってコロナの中断が入ったこともあって、その時間は私たちにとってより貴重なものになりました」

 ディフェンスにおいても、「土台、基礎固めをしっかりできた。それが生きている」(主将)という。タックルに入ってもよじれない黄色の段柄と、力強く地を掻く黒い両の足は、他校に先んじてスタートを切った覚悟と鍛錬の成果の、一部だ。

 10月にシーズンが開幕してからの星取りは各校それぞれ。チームがことし作ってきた、礎になるものが表れてくるのはこれからだ。